事件は世相を映す鏡と言っても過言ではない。経済の低迷やインターネットが誕生した「平成」という時代の中で起こった数々の事件。昭和の時代とは一体何が違うのか。ノンフィクション作家の石井妙子氏と『平成史』(文藝春秋)を著した與那覇潤氏が語る。
編集部(以下、─)昭和の時代に比べて、平成の事件の特徴とは何だとお考えですか。
石井 あくまでも個人的な見方ですが、昭和の時代の犯罪というものは、その動機に、大きな理由というものがあったように思います。腑に落ちる見えやすさというのでしょうか。
與那覇 おっしゃるとおり、国民が共有する価値観を失った平成の事件は、凶行に至った犯人のロジックをたどりにくい点が特徴だと思います。例えば、右翼少年が起こした「浅沼稲次郎社会党委員長刺殺事件」(1960年)や連合赤軍の「あさま山荘事件」(72年)は、その政治的な動機が明瞭でした。
石井 平成に入り、2008年に起きた「秋葉原通り魔事件」では、事件発生後、さまざまな識者が「格差社会で生まれた犯罪だ」「派遣労働者の怒りが根底にある」といった解釈で事件を捉えていました。私もその解説で腑に落ちていたのですが、加藤智大元死刑囚が書いた4冊の著書を読むと、全く違う理由であることが分かりました。彼はむしろ、正社員よりも自由に辞められる派遣社員として働くことが好きだったのです。事件を起こした理由も携帯電話サイトの掲示板で知らない人とつながり、トラブルになったことが原因でした。
與那覇 秋葉原事件の前には「西鉄バスジャック事件」(00年)がありました。犯人の少年は「2ちゃんねる」のヘビーユーザーで、「強がっているけど、口だけだろう?」といった書き込みで煽られていたとされます。彼も加藤元死刑囚も、一度は期待したオンラインのつながりに「裏切られた」と感じて、リアルな暴力に走った面があります。