国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は15日、レバノン北部で14日に23人の死者を出したイスラエル軍の空爆について調査を求めた。
ジェレミー・ローレンス報道官は、キリスト教徒が大半を占めるアイトウ村に対する空爆は、国際人道法に関して「真の懸念」を引き起こしたと述べた。
ローレンス報道官はこの空爆について、レバノン南部から避難してきた家族に最近貸し出されていた住宅ビルが爆破されたとし、犠牲者には12人の女性と2人の子供が含まれていると説明した。
救助隊は15日もアイトウ村で、がれきの中から遺体を収容していた。同村は、これまでの紛争の中心だったレバノン南部やベカー渓谷、首都ベイルートの一部から遠く離れている。
イスラエル国防軍(IDF)は、この空爆についてまだコメントを発表していない。
爆破された建物を所有するエリー・アルワン氏は記者団に対し、この家は10人ほどの家族に貸し出されており、その後さらに10人ほどが加わったと語った。
アルワン氏によると、14日にこの家に車がやってくるまでは、入居者との間に問題はなかった。この車の運転手は、現金らしきものを運んでいたという。空爆はその日に実施された。
イスラエルは、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが通常活動を行っている地域に空爆を行っており、ヒズボラのメンバーは国内の他の地域へと追いやられている。そのため、イスラエルがどこを標的にするかわからないという不安がレバノン全土に広がっている。
AFP通信の取材に応じたアイトウ在住のサルキス・アルワン氏は、この村は「おそらくもう(中略)避難民を歓迎しないだろう」と語った。「そして避難民を受け入れている村人も、出て行ってもらうよう求めるだろう」。
2023年10月7日にパレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエル襲撃した翌日以降、イランの支援を受けているヒズボラは、断続的にイスラエルにロケット弾を発射している。イスラエルはヒズボラを弱体化させるため、最近攻撃をエスカレートさせる中で、警告なしに住宅を攻撃する意思を示している。
10日夜には、イスラエル軍によってベイルート中心部の住宅ビルが攻撃され、レバノン保健省の発表によると22人が死亡した。
この攻撃は何の警告もなく行われ、117人が負傷した。未確認の情報によると、標的とされたのはヒズボラの幹部、ワフィク・サファ氏だったという。
報道によると、この攻撃でサファ氏は死亡しなかった。ヒズボラはサファ氏の状態についてコメントしていない。
イスラエルは、同国北部の人々が自宅に戻れるようにするためには、ヒズボラと戦う必要があると主張している。
13日には、ヒズボラがイスラエル北部の軍事基地にドローン(無人機)攻撃を行い、イスラエル兵4人が死亡、7人が重傷を負った。これは、イスラエルが2週間前にレバノンへの地上侵攻を開始して以降でヒズボラがもたらした、最も死者が多い攻撃だった。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は15日、レバノンの4分の1以上が現在、イスラエル軍の避難命令の対象となっていると発表した。
UNHCRの中東地域担当ディレクター、レマ・ジャモス・インセイス氏は、「人々は避難勧告に従い、ほとんど何も持たずに逃げ出している」と記者会見で述べた。
イスラエル軍による避難命令は、同軍の地上侵攻と爆撃作戦と相まって、レバノン国民の大移動を引き起こした。
レバノン政府によると、すでに120万人以上が避難を余儀なくされている。人々は南部の村落や主要都市から逃げ出し、ベイルートやトリポリ、その他の都市へと北上している。
多くの人々は、ベイルートやその周辺の避難所で、安全ではない不衛生な環境に置かれている。学校や店舗は避難民の収容のために閉鎖されている。
ベイルート市長室はBBCに対し、避難民の数が多すぎるために福祉サービスがパンク状態にあり、数千人の避難民が路上に取り残されていると語った。
ベイルートのアブダラ・ダルウィッシュ市長は先週、BBCに対し、市は2006年の前回侵攻時に立てられた計画に基づき、避難民の人数を今回のわずか10%と想定して準備していたと語った。
「これほどまでに膨大な数になるとは想像もしていなかった」、「私たちの計算は日々、より大きなものになっていった」と、ダルウィッシュ市長は話した。
イスラエルによるベイルートへの空爆は、南部のダヒエ地区を標的にしたもの。ここ3週間は毎日のように、昼夜を問わず行われていたが、直近の5日間ほど実施されていない。
アメリカ国務省のマシュー・ミラー報道官は15日、アメリカ政府がイスラエル政府に対し、ここ数週間のベイルート空爆の「規模と性質」について「懸念」を表明したと述べた。
「イスラエルは、イスラエル国家に脅威をもたらすテロリストに対して自国を防衛する権利を有しているが、ここ数週間にベイルート全域で展開された活動の性質について、我々は真の懸念を抱いている」
一方で、「ここ数日間、攻撃の回数が減少している」と、ミラー報道官は付け加えた。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は14日夜、13日のヒズボラによるドローン攻撃を受けて、イスラエルは「容赦なく」ヒズボラを攻撃し続けるとし、ベイルートも対象だと脅した。
15日夜には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との電話会談で、「レバノンの安全保障状況を変えず、同国を以前の状態に戻すことになる一方的な停戦」には反対だと述べた。
同日にはヒズボラの副指導者であるナイム・カセム師も、イスラエルに対する脅威を強調。敵に苦痛を与えるための「新たな計算」があると述べた。
一方で、カセム師はテレビ演説で停戦を呼びかけ、それが現在の紛争の唯一の解決策だと述べた。そのうえで、「イスラエルがそれを望まないなら、我々は続ける」とした。
レバノン政府の発表によると、イスラエルの攻撃により、戦闘員と非戦闘員の区別なく、過去1年で少なくとも2309人が殺された。
イスラエルは、兵士と民間人を合わせて約50人が殺害されたと発表している。
(英語記事 UN urges probe into deadly Israeli strike on north Lebanon