ジョナサン・ヘッド東南アジア特派員、イヴェット・タン(BBCニュース)
国際刑事裁判所(ICC)検察局は27日、ミャンマーの少数派ロヒンギャの人たちを迫害するなど人道に対する罪を犯した疑いで、ミャンマー軍トップの逮捕状を請求したと発表した。
ICCのカリム・カーン主任検事は、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャを迫害し、隣国バングラデシュへ避難するしかない状態に追い込んだことについて、ミャンマー軍トップのミンアウンフライン司令官が刑事責任を負うと考えるだけの、合理的な根拠があると説明した。
ミャンマー西部では2017年、数十万人のロヒンギャの人たちがミャンマーを逃れた。国連は、ミャンマー軍がロヒンギャを集団虐殺(ジェノサイド)しようとしたことが原因だとしている。
これについてミャンマー政府は、ジェノサイドを否定。ロヒンギャの武装勢力を掃討しようとしただけだと主張している。
ロヒンギャの武装勢力が2016年からミャンマー国内30カ所以上で警察拠点を攻撃したのを受けて、軍は2017年に掃討作戦を開始した。複数の国際人権団体やロヒンギャの人たちによると、ミャンマー軍はロヒンギャの村を焼き、民間人を次々と攻撃、殺害したという。
国際医療団体「国境なき医師団(MSF)」によると、作戦開始から1カ月の間に、少なくとも6700人のロヒンギャが殺害された。これには5歳未満の子供が少なくとも730人含まれるという。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、ミャンマー軍がロヒンギャの女性や少女たちを次々とレイプし、虐待したとしている。
ミャンマー軍によるロヒンギャへの暴力に対して、国際的な非難の声が上がり、法的責任の追及を求める動きが強まったものの、当時の事実上の最高指導者だったアウンサンスーチー氏は軍幹部の訴追を認めなかった。
ミャンマーはICCに加盟していないため、当初はミャンマー軍とその幹部の訴追は難しいとされていた。
しかしICC検察局はその後、強制移住を中心として、多くの犯罪がICC加盟国のバングラデシュ(ICC加盟国)でも行われたため、起訴できるだけの根拠があると主張するようになった。
カーン主任検察官は、5年間にわたる捜査の結果、ミンアウンフライン司令官への国際逮捕状を請求するのに十分な証拠を得られたと話した。
今後はICCの判事3人が、逮捕状請求について検討することになる。
ミャンマー軍については、ジェノサイドの罪を問う裁判が別に、国際司法裁判所(ICJ)で進行している。
複数の人権団体が、ミンアウンフライン司令官への逮捕状請求を歓迎している。「めでたい日」と呼ぶ団体もある。
人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチで国際刑事司法を担当するマリア・エレナ・ヴィニョリ弁護士は、「ICC検察官による逮捕状請求は、ミャンマー軍幹部への強い警告だ。加害を繰り返すあなたたちは、司直の手が及ばないところにいるわけでは決してないと伝えている」のだと述べた。
「これはロヒンギャにとって珍しい、めでたい日」だと、イギリスで活動するビルマ・ロヒンギャ協会のトゥンキン会長はロイター通信に話した。「今日ついに、正義と責任追及に向けて、また一歩踏み出した」。
ミャンマーは現在、内戦のただ中にあり、政府軍はかなりの損失を重ねている。
ミンアウンフライン司令官は2021年2月、選挙で選ばれたアウンサンスーチー氏が率いる政府に対するクーデターを主導し、権力を握った。
このクーデター以来、司令官は国際社会から孤立した存在となり、地元を離れることはほとんどない。それだけに、オランダ・ハーグにあるICCの法廷に立つことはおそらくないだろう。
しかし、バングラデシュの難民キャンプから出ることができず、みじめな状況に置かれている何十万人ものロヒンギャの人たちにとって、ICCの今回の動きは少なくとも、自分たちが世界から忘れられているわけではないと思える展開かもしれない。
(英語記事 ICC prosecutor seeks arrest warrant for Myanmar leader)