同盟国重視の点はもっともであり正論だが、トランプの「アメリカ・ファースト」の基準が経済的損得勘定に偏り、「力による平和」の実現というが、その「力」が関税賦課のことであれば同盟国の立場としてはいささか心もとない。また、トランプの集中力のなさや戦略性のなさが容易に改善されるとは思えず、シングルトンの中国経済の状況についての見方も、また、中国が軍事的カードを切る可能性についてもやや楽観的で、トランプが中国に対して恒久的な優位に立つ好機となるとの主張に必ずしも強い説得力はない。
トランプが関税を武器とする一連の公約をどのようにどこまで実行するかは良く判らないが、世界経済や貿易に影響を与える可能性は極めて高い。
この論説では、関税措置の消費者への影響について、「世論調査によれば、ほとんどの米国人はトランプの関税による威嚇を支持している」としているが、この点もやや楽観的過ぎる印象がある。トランプの世界一律10~20%の関税賦課という公約についても、その価格転嫁や相手国側の報復関税による米国輸出への影響やこれに対する世論の反響も考慮する必要があろう。世論も「威嚇」は支持しても物価上昇まで支持しているとは思えない。
トランプの貿易戦争への4つの欠点
この論説と同日のニューヨーク・タイムズ紙で、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンが、逆にトランプが貿易戦争で敗北する可能性があると論じている。中国は、消費拡大による経済成長を目指すべきだが、電気自動車(EV)等の先端分野での世界制覇を目指して過剰生産を輸出拡大で解決しようとする。
米中貿易戦争は不可避であるが、トランプの無知、焦点の欠如、縁故主義、騙されやすさの4つの特性から、この問題に対応する指導者として最悪であると辛辣に批判している。無知とは関税の影響や世界貿易の仕組みについて理解していないこと、焦点の欠如とは一律の関税措置により打撃を与え、同盟国を阻害するような政策であること、縁故主義とは特定の企業に関税を免除する権限の濫用、騙されやすさでは第1期目の中国との経済貿易協定の2000億ドルの追加輸入の約束を中国が守っていないことを指す。
いずれにしても、トランプ第2期政権で米中貿易戦争が主要な問題となることは明らかであろう。その中で、日本は、自らの経済復活のために、どのように米中両国と関わって行くのか、喫緊の最重要課題の一つである。