次のフランス大統領選挙でルペンも含め誰が選出されるとしても、フランス大統領がEUを地経学的勢力にすることを真剣に考えているならば、台頭経済圏との連携強化の機会を失うのは馬鹿げている。経済関係は地政学的影響力に直接結びつく訳ではないが、もしEUが、その中心的権能である貿易合意をまとめられないなら、EUの他の分野での能力への信頼も下がる。
外交では、政府が自ら希望する国際的プレーヤーになるために必要なコストを払う用意があるかを示す明確な選択に直面することがある。EUには、特に仏と伊には、メルコスールとの合意は、正にそれに当たる。1度の失敗は「残念だった」で済むが、2度の失敗は、米国からの脅しに立ち上がり自由貿易を護る機会をみすみす失うことを意味する。
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自由貿易に背を向け続ける米国
トランプの米国に備えたEUのあるべき対応に関する社説である。その背景にある基本的問いは、米国はトランプ第1期政権だけでなくバイデン政権においても自由貿易に背を向け、トランプ第2期政権でも同じことが起こり、さらには、第2期政権においてヴァンス副大統領の人気が高まればトランプ後にヴァンス大統領が2期続く。今後12年間トランプ的な共和党政権が続く可能性がある中で、日本と欧州を中心とした米国の同盟国と同志国は自由貿易にどう向き合っていくべきか、ということだ。
日本や欧州がこれまで米国が一人でやってきた国際紛争解決の責任を分担して負うためには、通常であれば全ての紛争当事者から恨みを買う紛争解決策に対する国際社会の多数派の支持を確保することが極めて重要だ。いわゆるグローバルサウスを中心とした諸国の支持を得る上で、我々先進国が持つ最大のレバレッジは、自由貿易に基づく市場アクセスである。
従って、自由貿易体制に背を向けた米国は、益々多くのグローバルサウス諸国の支持を失い、それらの諸国は、保険を掛けるためにBRICSに加盟し中露サイドにすり寄っている。