2025年1月10日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月10日

日本は拡大TPPに活路を

 米国の紛争解決の責任を分担していく我々は、やはり自由貿易体制支持で一貫すべきだということになるのだろう。そのためには、3つのことが必要だ。

 第一に、米国を孤立させ米国自らが翻意して自由貿易に戻ってくるように仕向ける位の勢いで、自由貿易圏を拡大していくことだ。このEUとメルコスールの動きは、第一義的には両地域の利益を目指したものだが、この社説が言うようにそれを超えた意義を持つ。

 日本にとっては、それはやはり環太平洋経済連携協定(TPP)の一層の拡大ということになる。その先に来るのは、EUとの連携だろう。

 もちろん、メルコスールとの関係で日本が出遅れている現状も、できるだけ早く変える必要がある。メルコスールは人口(東南アジア諸国連合〈ASEAN〉 6.8億人;メルコスール3.1億人。以下同じ)、国内総生産(GDP)総計(3.6兆ドル;2.7兆ドル)でASEANに劣るが、一人当たりのGDPでは上回る(5300ドル;8600ドル)一大経済圏であり、豊富な資源・食料供給力を備えており日本にとって重要な地域だ。さらに、水力、風力等の豊富な再生可能エネルギーを有しており、高い技術力を持つ日本企業との連携のポテンシャルは高い。

 第二に必要なのは、紛争解決メカニズムの創設だ。通商紛争が軍事紛争に繋がらないように衡平な解決を実現するのは重要で、その上でWTOは重要な役割を果たしてきたが、米国はこれに対しても背を向けてしまっている。

 米国の拒絶感が根強い以上WTOの改革は難しい。拡大TPP+EUで、地域限定的なWTOを新たに立ち上げる方が、より理にかなっているだろう。

 第三に、安全保障上機微な汎用技術などの輸出管理は同時に必要だ。この分野では、一番包括的な枠組みとしては(実質的には冷戦時代の対共産圏輸出統制委員会〈COCOM〉を引き継いだ)ワッセナー・アレンジメントが存在しているが、現在はロシアがメンバーであり、枠組み強化の動きは全てロシアの拒否権で止まっている。従って、ここでも既存の枠組みの改革より、拡大TPPをベースに新たなワッセナー類似の枠組みを作ることの方が容易なはずだ。

 このような分野で日本が世界を引っ張っていけるかどうかが今後の日本の影響力や発言力を規定することになる。

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