このような一連の動きの中で、不法移民を巡る二大政党の政策的立場は収斂しつつある。24年大統領選では、トランプ氏の不法移民対策を支持してトランプ氏に投票した中南米系が増えるなど、不法移民に厳格な態度は徐々に支持を得つつある。
強まる移民排斥の動きと
日本人にも及ぶリスク
24年は1924年移民法が施行されて100年である。これは、カトリックやユダヤ教徒、東欧・南欧出身者が増大しつつあることに不満を抱いた人々が、プロテスタントと西欧出身者が中心だった1890年の人口比率を基に各国からの移民の受け入れ数を定めた法律である。その結果、日系移民の入国も困難になったことから、日本では同法を排日移民法と呼ぶ人もいる。
1924年移民法にみられるように、特定の移民のみを積極的に受け入れて他は排斥したいという感情は、米国内ではサイクルのように訪れている。一般論としては、経済が好況になると移民に寛容になり、不況になると移民排斥の動きが激しくなる傾向がある。現在の米国は決して不況とはいえないが、格差の拡大から不満の矛先が移民に向かっている。トランプ政権末期、トランプ氏が新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」と呼ぶなどした結果、反アジア系感情が高まってヘイトクライムも発生した。今後米国の格差と分断が沈静化するとは考えにくいことを考えれば、高技能者など米国に明白な恩恵を与える人を除き、移民に批判的な世論は継続するだろう。
米国と中南米諸国では、極めて大きな経済格差が存在する。中南米諸国からの移民流入は今後も続くだろう。だが、それほどの格差がない国から米国に移住することには一定のリスクがあり、時にはリターン以上の不都合が生じる可能性もある。
日本経済は厳しい局面にあり、米国などで活路を見出そうとする人が一定数存在している。もちろん、留学などを通して米国で知見を得ることに大きな意義があるのは間違いないが、「米国に行きさえすれば何とかなる」という時代ではもはやなくなっている。日本は、国民が安心して暮らしていくことのできる国づくり、経済の立て直しなどを具体的に考えていく方がよいのではないかと思われる。