2025年1月13日(月)

移民問題に揺れる世界

2025年1月13日

 だが、米国の政治・社会の分断が鮮明になり、二大政党間の対立が激化していく中で、政権党による移民改革法推進の動きを非政権党が阻もうとする傾向が強くなっていった。そのため、オバマ大統領は大統領令を出して不法移民に合法的地位を与えようとしたが、共和党が反発するとともに、連邦最高裁判所も大統領令を却下するなど、移民改革は進まない状態が続いた。

対立争点化した移民問題
変化する二大政党の主張

 この状況を大きく変えたのが16年の大統領選挙におけるトランプ氏の主張である。移民人口が増大し、中南米系を除く白人の人口比率は40年代のいずれかの時点で半数を下回ると予想される中、共和党はマイノリティーの支持獲得を目指して移民に寛容な立場をとる候補の擁立を図った。だが、不法移民対策を最優先課題に掲げたトランプ氏が中南米からの移民を「強姦魔」や「麻薬密売人」と表現し、米墨国境地帯における壁の建設や不法移民の強制送還を主張して支持を集め、大統領になった。トランプ的手法が予想外に支持を拡大させたため、共和党内で移民批判の流れに乗る候補も増えた。

 トランプ政権は移民取り締まり強化のみを追求した。だが、違法に入国した家族のうち、強制送還を想定して親を収監する一方で、子どもは別所で保護するなどの措置をとった結果、家族が離散状態になるなどの非人道的な事態も発生した。そのため、民主党は移民問題に寛容な態度を強化するようになり、移民問題は対立争点化していった。

 バイデン政権になると、移民に寛容な立場への期待から、米墨国境の違法越境者の数が増大した。トランプ政権の施策によって離散状態となった家族への補償を行うとともに、難民受け入れ者数を増大する方針を出したことが、違法越境者の行動を変えた。かつては男性が単身で入国して密かに労働することが目指されたが、近年では家族で入国して難民申請する割合が増えた。認定審査を待つ間は国内滞在が許可され、半年後には就労も可能になるためだ。

 だがバイデン政権期には、テキサス州知事などが、聖域都市とも呼ばれる民主党が強い地域に不法移民を移送するようになった。これらの都市の収容施設は溢れ、財政負担も増大し、体感治安の悪化を訴える住民も増えた。また、スラムに居住する黒人貧困層は、自らが希望しても提供してもらえないシェルターや食料が不法移民に提供されるのを見て、不満を表明するようになった。

 その結果、バイデン政権も徐々に不法移民対策を強化するようになった。バイデン氏は、ウクライナ支援策と不法移民対策強化をセットで立法化すると、共和党の上院指導部と合意した。だが、移民問題を大統領選の争点にしたいトランプ氏の意向を受けて、下院共和党が反対した。その後、下院議長案に基づいて法案通過を目指すことで政権と共和党の間で合意ができたものの、結局法案は通過しなかった。そこでバイデン氏は、正規の書類を持たない越境者数が1日平均2500人を超えた場合に難民申請の受け付けを一時停止して、以降は国外退去とするという大統領令を出した。


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