ヒットメーカーの舞台裏

2014年3月21日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

出遅れた北米スマホ商戦
逆襲の舞台「プリペイド市場」

 京セラの北米での携帯電話事業は、00年に通信機器向け半導体大手の米国クアルコムから携帯電話事業を買収してスタートした。08年には高級機種で強かった三洋電機(現パナソニック)からも北米事業を承継し、攻めの態勢を整えていた。

 だが、当時から携帯電話の世界はスマホの登場によって大きくうねり始め、京セラは苦戦を強いられることとなる。商品展開などの指揮を執る通信機器関連事業本部マーケティング部長の能原隆(48歳)は「三洋さんの事業も一体化し、さぁ、やるぞという時だったが、率直なところスマホには乗り遅れた」と、振り返る。手をこまぬいていたわけでなく、京セラも10年にはスマホの投入を図った。だが、ライバル社が液晶やプロセッサーなどのスペックをどんどん引き上げて行くなかで、劣勢は否めなかった。

 11年までの苦戦を踏まえ、能原は焦点を絞った攻めへと転換した。「伸びる市場に焦点を合わせ、独自の商品を競争力ある価格で投入する」という作戦だった。能原がスマホで「伸びる」と見たのは、「プリペイド」の市場だった。米国でも携帯電話は、通信事業者と2年契約して端末を比較的割安に買うというのが主流だが、通信費用を予め定めて経済的に使うというプリペイド方式のユーザーも少なくない。

 スマホ以前から定着していた市場だが、11年ごろには「スマホでもプリペイド式のニーズの萌芽が見えてきた」のを能原は見逃さなかった。ただし、費用にシビアな顧客が主体なので、スマホ端末を含め「価格が支配する市場」(能原)だという。プリペイドの場合もユーザーは端末を買い取る。だが、2年契約といったしばりがないため、通常、通信事業者が端末価格を割り引くことはない。その分、メーカーは「競争力ある価格」で供給しなければならないのだ。

 ハイドロシリーズは、モデルの新旧や機能によって異なるが、おおむね100ドルから150ドル(約1万~1万5000円)で販売している。他社の2年しばりでの契約よりも一般的に安い価格帯だ。京セラのグローバルな生産体制や自社の電子部品が、コスト面の競争力を支えている。

 能原がこだわった商品の「独自性」は前述のように、防水やスマートソニックレシーバーによる通話、さらに耐衝撃性などによって発揮されている。初号機から訴求した防水機能は「これによって動画が楽しめるといったスマホの本来的機能ではないが、水に弱いという日常使いでの課題にアプローチした」のだった。販売に当たっては水槽を用意し、ハイドロを投げ込んで作動させるといった実演を「全米で草の根的」に展開、地道に認知度を高めていった。

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