ーー確かに時代により価値観や、迷惑行為は変わりますよね。たとえば、本書でも携帯電話の電車内での使用について言及されています。2000年代前半には、電車内で携帯電話を取り出すだけで、なにかいけないことをしている気になったにもかかわらず、最近では「通話はNG、メールはOK」という記述的規範が支配的になったと。たった10年でも迷惑行為についての価値観が変わるものなんですね。
北折氏:私もすごく不思議でした。当時の新聞の投稿欄には、携帯電話の電波の影響で、ペースメーカーを使っているお年寄りが電車に乗るのが不安だという記事がありました。10年間で何が変わったかといえば、ひとつは技術の進展。現在の第3世代(3G)の携帯電話はペースメーカーに影響を与えなくなったと言われています。
ただ、もう一つ大きな要因として携帯電話の話し声が不愉快だというのが隠されていたと思うんですね。それは私が高校生の頃に、電車内でウォークマンのイヤホンから漏れる音が迷惑だと散々言われていました。携帯電話とウォークマンのマナーに共通しているのは「耳障りな音が迷惑だ」ということです。
ーー電車内で知り合い同士が話しているのは不愉快に感じないのに、携帯電話で話しているとどうして不愉快に感じるのでしょうか?
北折氏:電車内での会話でも騒いでいたら、うるさいと感じると思いますが、静かに話している分には迷惑と感じませんね。それは会話の内容が周りの人にも聞こえることで、コミュニケーションを取っていることがわかるからです。携帯電話での通話は、通話相手の声が全く聞こえないため、どういったコミュニケーションが図られているかわからないので、ある種の不安感や不快感に繋がっていると思うんです。これは私の仮説です。
ーー少し前に世間を騒がせていたのが、自らの迷惑行為をツイッターなどのSNSで発信する騒動です。神戸大学文学部2年の学生がUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で迷惑行為を繰り返し、ツイッターに写真を投稿。その後、威力業務妨害や偽計業務妨害で略式起訴されました。また、コンビニエンスストアのアイス用の冷蔵庫で寝そべっている写真をツイッターに投稿した高校生がいた。この件では、店側が冷凍庫を交換し、中にあった商品すべてを破棄しました。
本人たちは内輪ノリの軽い気持ちで起こした行動だと思うのですが、それがテレビのニュースなどでも報道され、大騒動になってしまっています。こうした騒動はどうして起こると考えていますか?
北折氏:ツイッターにそんな写真を投稿すれば日本中どころか、世界中に拡散しますが、彼らは仮に広がったとしても、おそらく学校内で広がって恥をかくぐらいで、まさか日本中に広がるとは想定していないのではないかと思います。つまり、社会の広さというものを想定しきれていないんです。