2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年3月12日

 多数の党幹部、高級官僚が起訴されたことで、指導部の信頼性はいくらか回復したが、腐敗の糾弾は敵を攻撃する格好の手段にもなる。また、ICIJの報告や活動家の裁判は、透明性と説明責任の欠如が、今後、党の汚職防止努力の足を引っ張る可能性を示唆している。実際、中国当局は今も党幹部の資産公開を要求する声を無視し、ブルームバーグやNYT紙のウェブサイトを1年以上も閉鎖し、腐敗告発のマイクロブログを弾圧している、と指摘しています。

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 薄煕来事件以来、中国共産党幹部の海外蓄財は各種インターネットで報道されて、中国内外周知の事実となり、中国共産党としても、こうした報道を全く無視するわけにはいかず、何らかの措置はとらざるを得ない状況に置かれているようです。

 しかし、習近平以下全ての幹部、あるいはその親族が海外に資産を逃避させている現実では、抜本的な解決は不可能でしょう。妻が海外に住んでいる役人の昇進を認めないなどという措置は如何にも姑息であり、一時的に事態を糊塗しているとしか思えません。

 共産党幹部のほとんど全部が海外に資産を逃避させている現状では、摘発、処罰があったということは、単に、汚職摘発に名を借りた権力闘争の激化を示すものだという観察も可能です。外部の批判が激しくなればなるほど、より多くのスケープ・ゴートが必要になるということもあるでしょう。

 おそらくは、中国共産党は、部分的粛清による政権のイメージの改善と、同時に、内情を暴露する報道を厳しく統制、弾圧する二正面作戦で、事態を凌ぎつつあるものと思われます。

 ここで問題なのは、厳しい国内の言論統制に対する、米国の態度です。かつては、米大統領の訪中に際しては、中国は、人権運動家を釈放して宥和的姿勢を示したりしていました。しかし、最近はそういう話は聞かなくなりました。中国の国力が増して、前より尊大になったためか、米国が遠慮して発言を差し控えているせいか、おそらくは、その両方が原因でしょう。最近の人権運動家の逮捕に対して米国のスポークスマンは「大いなる失望」を表明しましたが、それに伴う圧力は何ら行使していません。

 人権問題は、米国が中国に対して持っている、最大の正統的な武器です。この使用を自発的に控えるような態度をとるとすれば、米中関係の前途は、対中宥和を第一とするものとなるのではないかと、憂慮されます。

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