中国軍の内部ではいま一体何が起きているのか。対外拡張的な強硬路線は習近平によるお墨付きを得たものなのか。「軍事的冒険主義」に突っ走っているという見方もあるが実態はどうなのか。
外から見ると現在、中国軍では二つの動きが同時並行的に進んでいることが窺える。一つは日本の安全保障に大きく影響する海洋や空、宇宙空間での拡張主義的動きであり、もう一つは綱紀粛正を図って規律を引き締めながら機構改革を進める動きである。強硬的態度は拡張主義的動きの表れか、それとも機構改革を巡る反発や自己主張の反映なのか。
軍史上最大の汚職「谷俊山事件」とは?
軍に対する汚職摘発、贅沢禁止、綱紀粛正での統制強化の実態が伝えられることはない。軍内部の問題はあまりに敏感なので公開がはばかられるのだ。腐敗した国民党に代わり、抗日戦争を戦って国を作った解放軍という筋書きが崩れ、共産党の正統性が揺らぎかねないためだ。しかし現在、空前の激震に見舞われている。「軍史上最大の汚職」と言われる谷俊山事件が起き、更迭から2年たってやっと中国国内で報道されたのだ。
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谷俊山は兵站を統括する幕僚部門である総後勤部のナンバー3(副部長)だった。軍の階位は上将に次ぐ上から2番目の中将だが、解放軍230万のトップ30に入る。一説に200億元(3000億円超)と言われる巨額の汚職額だけでなく、地位の売買もあったと言われ、背後にはより高位な高官や軍を代表する美人歌手(湯燦:彼女は収監されているのか、行方知れずになっている)の関与も取り沙汰されている。
情報が出たタイミングには政治的意図が働いた可能性が大きい。薄煕来事件を巡る混乱が収束し、共産党中央委員会3回総会も無事に改革案を打ち出して実働段階に入っている。ゴーサインを受けて出た情報と言えそうだ。ただそれでも『財新』誌が谷俊山事件の報道にかけた意気込みは評価してしかるべきだ。
そこで今回、2本の記事を紹介したい。『財新 新世紀』誌サイトの記事「総後勤部副部長の谷俊山が捜査されて既に2年」と、『財新』に続けて社説で取り上げ、遠慮がちながらも事件の公開を政府に求めた党機関紙『人民日報』系統の『環球時報』サイト社説「軍の汚職取り締まりは公開すればするほど民衆の信任を獲得できる」である。
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記事(1)【2014年1月14日 『財新網』(抄訳)】
20人以上の私服の武装警察隊員が二列に並んで軍用特別供給マオタイ酒のケースを一箱一箱2台の緑色の軍トラックに積み込んでいる。金製の船の置物、盆、毛沢東像も押収した。2013年1月12日深夜のことだ。家宅捜査されたのは軍総後勤部の谷俊山副部長の実家だ。谷の名前が国防部ホームページから消えて既に1年経っている。