米クレアモントマッケナ大学のミンシン・ペイ教授が、National Interest誌ウェブサイトに2月10日付で掲載された論説で、中国の政軍関係について考察し、共産党は人民解放軍を支配してはいるが、その行動の自由を広く認めており、強硬であればあるほど良しとする「寧左勿右」の思考が蔓延していることが最大の問題である、と論じています。
すなわち、中国と東アジアの隣国の間で起こり得る軍事衝突について、多くの人が懸念していることの一つは、中国の文民指導者が軍を強力に掌握しているかどうかである。この懸念は、2001年の中国軍戦闘機と米海軍電子偵察機の衝突、2007年の衛星破壊兵器実験、2011年のゲーツ訪中に合わせたステルス機の初飛行、尖閣近海での海自護衛艦への火器管制レーダー照射、尖閣上空へのADIZ設定といった、不穏な事件の続発によって高まっている。
中国軍の戦略的意図を解読するための、実りあるアプローチは、人民解放軍(PLA)が享受してきた行動の自由の程度を分析することである。すなわち、一党独裁体制が、一貫して、過度にリスクを求めるPLAの行動を懲戒できなかったという経緯の中で検証することである。
こうした観点から得られる一つの有用な観察は、PLAは、一般的に、共産党の確固たる支配の下にあり、主要な安全保障政策の策定においては、第二義的な影響力しか持たないということである。共産党が軍を支配する最も強力な手段は任命権である。PLAの最高司令部である中央軍事委員会は、政治的および個人的忠誠に基づいて文民指導者によって指名された、上級司令官で占められている。これらの将軍や提督は、中国の国家安全保障政策を議論する場で意見を言うことはあるかもしれないが、最終的な判断は、文民によってなされている。
この推測が正しければ、東シナ海へのADIZの設定のような決定は、PLAの将軍の職責をはるかに越えるものであり、文民の最高指導者によって、最終判断がなされたはずである。同様に、衛星攻撃兵器の実験や、ステルス戦闘機の公開といった重要な決定が、時期は軍隊が決定したにせよ、文民指導者の承認なしでなされたはずはない。
PLAは、主要な政策に決定的な影響力を持っていないかもしれないが、大きな行動の自由を持っている。これらは、最近の、中国と近隣諸国、米国との間の緊張を高める事件の要因となっている、危険な戦術的動きである。しかし、文民指導者に責任が無いというわけではない。PLAの兵士は、文民指導者によって承認された、一般的で曖昧な指令の下で行動していた、と考えるのが理に適っている。
PLAには、組織として、前線の兵士に行動の自由を与える十分な手段を持ってはいないかもしれないが、最近の事件の、よりもっともらしい背景は、中国の軍人、あるいは中国の官僚機構全体に蔓延している「寧左勿右(右よりは左であれ)」という思考であるかもしれない。この思考の要点は、指揮命令系統上のあらゆる軍人が、トップからの一般的で曖昧な指令を、より攻撃的な方向に解釈し遂行する傾向を持っている、ということである。外交政策では、この思考が、過剰反応や過度にリスクのある行動に繋がっている。
過去の記録によれば、より左翼的な行動をとった当局者は、出世したり、懲罰から免れたりしている。これまで、中国と隣国、米国の関係にダメージを与えた責任により懲戒されたPLA軍人は知られていない。