また、京都議定書における先進国の国別目標は、政治的決断によるトップダウン方式によって合意されたものであり、合理的な根拠に欠けるものである。我が国の立場から見ても、大きな問題点がある。我が国は、既に世界最高水準のエネルギー効率を達成しているにも拘わらず、この事情は十分考慮されることはなかった。この結果、我が国は、国内の努力だけでは目標を達成できず、海外からの排出クレジットの購入を余儀なくされ、現状でも、官民合わせて、1兆円にも及びうる国富の海外流出を余儀なくされ、大きく「国益」を損なう結果となっている。
これらの問題が、ポスト京都の枠組みに受け継がれた場合、国際的にも、国内的にも致命的な欠陥となる。京都議定書の轍を踏むことは、決してあってはならない。
示された6つの選択肢
中期目標検討委員会は、昨年10月の設置以来、国内の著名な研究機関(地球環境産業技術研究機構〈RITE〉、エネルギー経済研究所、国立環境研究所等)の協力を得てモデル分析を行い、また、主要な産業界の意見も聴取し、これらを統合した結果として、6つの選択肢を設定した。
そして、単に「目標数値」にとどまらず、「公平な負担の国際比較」、「具体的な削減策」、「国民の経済的負担」、「社会・経済への影響」という重要な側面について、具体的データを示して、判断材料を提示している。これらは、京都議定書の轍を踏まないため、また、国民理解と適切な世論形成のために不可欠であり、詳細かつ膨大な作業に携わった関係者のご努力に心から敬意を表したい。
中でも特筆すべきは、「国際的な負担の公平性」確保を検討の主軸に据え、その分析手法として、「限界削減費用の均等化」の概念を提示したことである。「限界費用」とは、経済学上の概念であり、一般に、一単位の経済行為を増加させた場合に増加する費用を意味する。本件の場合の「限界削減費用」とは、CO2を追加的に1トン減するのに必要な追加的費用である。
我が国のように、エネルギー効率が既に高い国にとって「限界削減費用」は相対的に高くなる。即ち、今後の削減ポテンシャルは相対的に小さく、「追加的に」CO2を削減する場合には、より高コストな設備導入等が余儀なくされ、その追加的コストは割高である。逆に、エネルギー効率が低い国にとっては、「限界削減費用」は相対的に低いものになる。この限界削減費用を用いた分析手法は、広く国際的に認められており、温暖化問題に関する権威ある国際学術機関であるIPCCの3次報告書においても、我が国のCO2の限界削減費用(中心値)を、他の先進諸国の1.6~1.9倍と評価している。
このように限界削減費用は、各国が到達したエネルギー効率化の度合いを適正かつ客観的に評価できる、最適の指標である。従って、目標数値の設定にあたり、これを一致させるところまで各国の削減努力を求めることは、その実現可能性も含め、極めて合理的であり、これにより各国間の負担の公平性は確保できる。