安倍内閣は2020年までに農産品輸出額を1兆円に倍増する方針を打ち出した。実現に向けて大きな武器となるのが、所管官庁が反対すると実現できなかった従来の特区とは大きく違う「国家戦略特区」だ。アベノミクス規制改革の目玉といえる。この武器を使うのにふさわしいのが、付加価値を乗せた加工食品輸出だ。
TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉が難航している。農産物の関税を完全撤廃することを求める米国と、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖・でんぷんの「重要5項目」を撤廃対象から除外するよう求める日本政府の溝が埋まらないためだ。農業団体などは、関税を撤廃すれば安い農産物が流入し、日本の農業は壊滅すると言う。
だが、関税で守り続けるだけで日本の農業が強くなるわけではないのも事実。しかも日本の農業は、従事者の高齢化や耕作放棄地の増加などで、このままではジリ貧になるのは農業関係者も認めるところだ。そんな農業の復興も安倍晋三首相が掲げるアベノミクスの柱の一つである。
「私は今後10年間で、6次産業化を進める中で、農業・農村全体の所得を倍増させる戦略を策定し、実行に移してまいります」
昨年5月、成長戦略についてのスピーチで安倍首相は言い切った。安倍首相は、過去20年で農業生産額が14兆円から10兆円に減り、生産農業所得が6兆円から3兆円に半減したと指摘。一方で農業に主として従事する「基幹的農業従事者」の平均年齢が約10歳上がり66歳になったことや、耕作放棄地が2倍に増えたことなどを示して、改革の重要性を訴えたのだ。
安倍首相が言う「6次産業化」とは、第1次産業である農業を、食品加工などの2次産業や、販売・外食といった3次産業と組み合わせることで付加価値を高めようというもの。首相は「観光業や医療・福祉産業など、様々な産業分野とも連携することで、もっと儲けることも可能」とした。
もちろん、いくら3次産業に手を広げても人口が減少する日本国内だけを相手にしていては、成長は望めない。世界の食市場は340兆円と言われるが、その中で、日本の農産物・食品の輸出額は、わずか4500億円程度(2012年)。しかも日本の農産物流通の基幹を担う全農グループの輸出額は12年度でわずか26億円に過ぎない。首相でなくとも「こんなもんじゃないはずなんです」と言いたくなる。安倍内閣は20年までにこの輸出額を倍増し1兆円にする方針を打ち出した。
日本のおいしいコメや果物など農産物はまだまだ世界で売れる可能性を秘めているのは確かだ。だが、政府がいくら旗を振っても、6次産業化を進め、輸出を増やすのは民間である。いかにやる気のある農家の力を引き出し、農業分野に可能性を感じる他の産業分野の人たちを呼び込むかが重要だ。