山間部の小規模農家の農産物でも十分に太刀打ちできるようにするには、おばあちゃんの伝統の味のように付加価値を乗せなければ採算が合わない。より高く売れる仕掛けづくりが大事だというわけだ。
コストをできるだけ引き下げ、付加価値をより高くする。企業としては当たり前の発想を岡本氏は追求している。用水路の水でミニ水力発電をし、用水路に沿ってすでにある高規格の農道にトロリーバスを走らせ、観光客を呼び込んで、駅には直売所やレストランを作る。岡本氏のアイデアは膨らむが、現在の農地利用の規制では実現はおぼつかない。特区の枠組みを使って新しい挑戦をしたいというのである。
そんな岡本氏に共鳴する自治体の首長も現れた。兵庫県の山間部にある養父(やぶ)市の広瀬栄市長だ。岡本氏と共に特区申請に乗り出した。全国一律の画一的な規制によってやりたいことができないのはおかしい。養父市に最もふさわしい制度運用をさせて欲しいという思いから、岡本氏と共同歩調を取ることにしたのだという。「これで国家戦略特区に指定しないなら、俺は日本を捨てる」とまで岡本氏は言う。
農産物にいかに付加価値を乗せて輸出するか。実はこれは世界標準の戦略でもある。農水省はイタリアと日本を比較する資料をまとめている(表)。それによるとイタリアの農林水産物・食品輸出額(11年)は3兆4679億円(11年の為替レート)で、その43%をパスタやワイン、チーズ、オリーブオイルなどイタリア料理に欠かせない加工食品が占める。世界にイタリア料理が広がると共に、食材輸出も増えているというわけだ。一方でみそや醤油、日本酒など日本食関連食材は4000億円の輸出額の15%に過ぎない。
世界で日本食はブームだ。レストランでの外食にとどまらず、家庭の日常の食事にも日本食が浸透していけば、食材輸出につながっていく。付加価値の高い農産品の輸出を増やそうと思えば、日本の文化やファッション、ブランドなどと共に売り込んでいく必要が出て来る。それを農協や農家だけにやれと言っても難しいだろう。様々な分野の人々が一緒になって日本の農業を盛り立て世界に売り出していく。そのためには岩盤規制の殻に閉じこもった農業からの脱皮が不可欠だろう。
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