安倍晋三首相が、待機児童ゼロや育児休業の長期化を推し進めると表明するなど、少子化対策がここ20年ほど急がれている。また国民生活白書によると、子育て世代における共働き率も上昇しているという。仮に子どもが生まれても、働いている間、幼い子どもを預けられるかどうかは、子育て世代にとって大きな問題だ。
そこで、今回『子育て支援の社会学ーー社会化のジレンマと家族の変容』(新泉社)を上梓した東京福祉大学短期大学部専任講師の松木洋人氏に、子どもをケアする側、預ける側の双方の心理などについて話を聞いた。
ーー松木さんのご専門は家族社会学ということですが、家族社会学では子育て支援はどのように捉えられているのでしょうか?
松木:現在の家族は閉鎖的になりやすくて、子育ての責任が家族だけに集中するので、それを外部のより広い社会に開いていくこと、親に限らずに多様な担い手が子育てを支えるような社会をつくることが必要だという考えかたが1980年代後半くらいからだんだん強くなってきています。
私も初めは素朴にそういう風に考えていましたし、今でもその考えかた自体は正しいと思っているんですが、ただ、実際に現場で子育て支援をしている方々に話を聞くと、子育ては家族の責任であるとおっしゃる方も多いんですよね。
ーーそれは意外ですね。むしろ女性の社会進出を手伝うために、保育園や幼稚園の先生を目指す人が多いのかと思いました。
松木:私は現在、保育士を養成する学科で教えています。そこでは、保育士と幼稚園教諭の資格が取れるので、学生たちは就職活動の時期が近づくと、保育園と幼稚園のどちらに就職するかを考えることになる。幼稚園に就職希望の学生と話をしていると、「保育園だと小さい子どもを預かるのがかわいそうな感じがする。もうちょっと大きくなった子どもの世話をしたい」と言ったりしますね。あと、保育園を希望する学生でも、「0歳児保育はちょっと…」なんて言うことがあります。これは、「保育園に預けられる幼い子どもはかわいそう」という気持ちが、決して全員ではないにせよ、保育園や幼稚園での仕事を希望する側にあるということだと思います。