台湾メディアからは疑問の声
同時に台湾メディアはもっとストレートに、なぜ2社も日本メディアを選んだのか、総統府にかなりの抗議を寄せていたようだ。今回、頼総統が取材を受けたのは台湾メディア2社とメディア2社のみ。総統インタビューはおそらく台湾の新聞、テレビの十数社がすべて目指していたはずだからである。
台湾政府内の関係者に取材すると、今回のインタビューには「普通の単独インタビューの形式にとらわれない形にしたい」という総統自身や総統周辺の広報戦略があったようである。
まず、日テレを選んだのはもちろん櫻井翔氏がインタビューアーである企画だった点が大きい。関係者は「若手スタッフの『若者にも伝わるようなインタビューにすべき』というアドバイスが採用された」と明かす。
今回、日本メディア2社以外にも、頼清徳総統は「財訊」という経済誌と敏迪選讀というウェブメディアの取材を受けている。特に敏迪選讀は若者に届くという観点から選ばれた。
日本経済新聞については、台湾が今後日本との半導体や電力など産業協力の深化を志向するにあたり、日経でのインタビューがいいのではないかとの意見が強かったという。また、日経はアジア向けの英語媒体にも転載されるということで、国際発信という一挙両得の効果も期待できると考えた。加えて、日経は頼氏の総統当選後から熱心に取材を申し込んでいたことも「企業努力」として当然考慮されたとみられる。
櫻井翔インタビューによる波紋
櫻井翔のインタビュー自体は、用意された質問を読み上げるような形で、頼総統の言葉に櫻井翔が当意即妙に応えるようなやり取りはなかった。ただ、インタビューの中で台湾が対中抑止のための開発を急いでいる「海のドローン」と呼ばれる無人小型艇について言及しているが、事前に日テレに無人小型艇の開発現場を取材させていた。台湾有事についてはどう考えるのか、という櫻井翔の質問に対して、頼総統が「自らの防衛意志と準備を示す必要がある」と述べ、中国に対して台湾は軍事面でも迎え撃つ備えをしていることをメッセージとしてはっきり伝えることを狙っていたようだ。
櫻井翔のインタビューは別の波紋も呼んだ。インタビューが日テレで放送されたのは19日夜の番組だったが、翌20日の頼総統による各メディア向けの記者会見にも櫻井翔は日テレ取材陣の一員として出席した。
その際、櫻井翔が会見場に現れたことで現地記者団が騒然となり、櫻井翔を撮影しようとする記者たちが続出した。そこで日テレのクルーは強い口調で「撮らないでください」と制止したのだが、「台湾でも彼は有名人だとわかっているだから、もし撮られたくないなら会見場に顔を出すべきではない」という反発が台湾メディアに広がった。
またインタビューの場所が、総統府の応接室などではなく、総統府の玄関で行われたことも、台湾では「台湾に友好的ではない(筆者注:台湾では一部そう思われている)読売グループの日テレを軽視したのか」などとの根拠のない憶測をSNSなどで呼んでいた。