2025年6月17日(火)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2025年5月29日

 そうしたこともあって、郭報道官は「櫻井氏のインタビューは過去にないブレークスルーの効果があり、アイドル出身ということで総統の発言内容は、普段政治や外交に関心を持たない層にも届けられた」と評価した。さらに「取材当日、日本メディアに対して総統の指示で台湾美食を用意した。総統は櫻井翔氏にシャンツァイ(香菜)を食べるかどうか質問し、食べないというのでシャンツァイの入っていない台湾式ホッドッグを櫻井氏に渡した。また、頼総統は自ら台湾のお菓子やポテトチップス、パイナップルケーキ、ヌガーなどのお菓子を選び、総統府のナンバーの入った人形や保温ポットなどをお土産に用意した」と郭報道官はSNSに記している。日台メディアの不満などの反響は総統府としても正直想定外だったようで、あえて報道官が異例の「インタビューのアレンジのバックグラウンド説明」を行うことになった。

対日重視を外交の柱に

 台湾は現在、米国との関税交渉が日本と同様に佳境に入っているほか、中国からの軍事的圧力や世論工作、スパイの浸透などへの危機感も強まっている。一方で、国会においては、多数派を握られている国民党・民衆党の野党連合の立法委員(国会議員)に対して、形成逆転のために多数の野党議員を罷免する「大罷免運動」を展開し、多くの選挙区選出の野党立法委員が罷免される可能性が生じている。反発した野党陣営も民進党の立法委員への罷免返しも進めているほか、民進党政権の行政院長(首相)に対する不信任案提出なども視野に入れるなど、政治は混迷・対立を深めている。

 その中で、日本との政治や経済、民間交流は、前の蔡英文政権と大きな変化がなく進行している。台湾で日本の大使館に相当する日本台湾交流協会が実施した最新の世論調査によると、76%の台湾人が「最も好きな国はどこか」という問いに日本を挙げるなど、台湾の対日感情は極めて友好的だ。そういう中で日本メディアをあえて優遇したことは、今後も対日重視を外交の柱にしたい戦略性を感じさせるものだった。

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