2024年12月9日(月)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2019年2月8日

 青山学院大学シンギュラリティ研究所設立記念講演会の後期4回目に登壇したのはゲームデザイナーの安原広和氏である。『Sonic The Hedgehog』の生みの親の1人。セガでソニックを制作し、その後、NaughtyDogに参加し、マーク・サーニーらと共に『ジャック×ダクスター』シリーズや『アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝』を開発した。北米バンダイナムコ社を経て、2012年4月よりNintendo Software Technologyに所属。現在はUnity Technologyで教育関連事業に従事。また、東京工科大学メディア学部特任准教授としてゲームデザインについて教鞭をとっている。今回は知られざるコンピュータゲームの設計方法から、人はなぜゲームに夢中になるのかまで、脳の働きを解き明かしながら解説する。

安原氏(写真・小平尚典)

6000万本のゲームを売りました

 これまでに6000万本ほどのゲームを売りました。会社が売ったので私の収入になった訳ではありませんが(笑)。ゲーム業界に入ったのは1990年ぐらいでした。16bitのゲーム機の時代ですね。皆さんはまだ生まれていないかもしれませんね。皆さんが生まれた2000年頃に業界再編が起こりました。2Dから3Dポリゴンのゲームができるようになりました。90年代の中頃には専用の機械がないと3Dゲームの設計はできませんでした。アメリカのSGI社の機械で1台、2500万円以上しました。それを4台集めて数時間かけてようやく1枚の絵が描ける、そういう時代が長いことあったんです。その後、家庭用PCが進化して専用のグラフィックボードができて、家庭でフライトシミュレーターが出来るようになりました。

 世の中にはゲームをする人としない人がいます。2000年を過ぎてから女性向けゲーム、スマホ用ゲームが登場して、従来はゲームをやらなかった人もやるようになってきました。ゲームをする人はゲームを買うだけでなく、あのゲーム面白かったねなどと、ゲームを語るようになります。そして、ゲーム作りたいなぁと思って、ゲームを作る人になります。ここで大きな壁があります。会社では、新IPのゲームがなかなか作れないので、そのために新会社が立ち上げられたりします。会社や大学の中で研究している人は、ゲーム制作の知識を広めて、それが世の中に還元されます。ゲームマーケットは拡大して、PCからモバイルへ、VR、ARも出てきました。今ではハイアマチュアからゲーム制作側の人になるための使いやすい汎用ゲームエンジンとしてunityが存在しています。

日本のゲームの衰退

 インターネットの普及と共に繁栄を極めていた日本のゲームは、欧米で次第に売れなくなってきます。原因は欧米市場向けの3Dゲームを設計制作できるプログラマーがいなかったことです。日本のゲームスタジオの多くはこの状態に耐えられなくなって違う業界へ散っていきました。ゲームの市場自体は2倍に拡大していったのになぜ日本はダメになったのでしょうか。

 その理由はシミュレーションゲームのために欧米はCG関係の学者や研究者が協力したことにあります。これらの技術は軍用機のフライトシミュレーションなど軍事産業に主に使われていました。ここがゲーム産業に協力したんですね。それによって、3Dのすごくリアルな画像が完成しました。ところが日本は「ゲーム業界なんてオタクの集まりでしょ?」という偏見もあって数学に明るい人材があまり入ってこなかったんです。

汎用ゲーム制作エンジンの登場

 さて2010年頃までは、ゲーム業界ではゲームを設計するための基幹制作エンジンは各社が内製していました。しかし、大規模なゲームを作ろうとすると何億円という費用がかかることになり、リスクが大きくなりました。失敗すると会社が倒産してしまうので、リスクヘッジのためにマイクロソフト用、ソニー用も両方作る必要が出てきました。そこで必要とされたのが、汎用ゲーム制作エンジンです。

 unityはゲームだけでなく自動車メーカーも使っています。クルマのCMをunityで作っています。さらに建築業界でも使われています。CADで作った設計データをunityを使えばすぐに3DCGとして見ることができます。

ゲームデザインとは何か?

 ゲームを作りたいという人に話を聞くと、いきなりドラゴンが出て来て...... とか言う人がいますが、それはストーリーであってゲームデザインではありません。ゲームデザインとは実は地味なものです。ゲームデザインをやりたい人に、自分が作りたいゲームをキューブだけで表現してみてくださいと言うと、だいたいこんな感じになります。レース、格闘対戦、3Dアクションはマップの中を移動するだけ、FPS(First Person Shooter)はコリジョンを狙って撃つだけ、しかし、多種多様なゲームとなるんですね。

 ここ5年間ぐらいでunityを使って誰でもゲームを制作する環境を手に入れることができるようになりました。iOSのゲームは月間100本ぐらいリリースされています。ところが、問題は「ゲーム」のようなものが簡単にできてしまうことです。マップが広くて、どこへでも行けて、敵と戦えるし、お姫様もいる。でもユーザーは何をすればいいのか分からない、というような。

 実はここからが「ゲームデザイン」なんですね。なぜゲームが楽しいかと言えば、それは設計者がユーザーのみなさんに楽しんでもらえるようにデザインしているからなんです。そのためには広範囲の様々な知識が必要です。ところが実際にゲーム制作会社に入ると、売れているものを指して「あのゲームみたいの作ってよ」などと言われて、同じようなゲームを作っていくということが行われています。これではダメなんです。

 今は色々なチュートリアルがあって、ツールの使い方はすぐに学べます。今後、AIが進化していけばツールが使えなくても考えたことは全て実装可能になってきます。そうなると必要な要素はハードウエアやソフトウェアの使い方ではなく、個々人に備わった創造力や教養の方なんです。


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