2025年6月17日(火)

WEDGE REPORT

2025年6月9日

「バランサー論」の危険性

 李在明氏の外交・安全保障に関する公約は、目標達成への15の方策で構成される。このうち「韓国の外交領域を拡大して多角化:新アジア戦略およびグローバルサウス協力推進」は2番目に記載されているが、「堅固な米韓同盟に基づく全方位的な抑止能力の確保」は7番目に位置している。

 一般的に公約では、重視する政策ほど上位に掲載される。それを前提に公約の行間を眺めると、「米韓同盟は維持・重視しつつも独自外交を推進する」という文脈が読めてくる。これが筆者の誤読でないことは確かだ。中国の国営メディア「新華網」は6月4日付「徹底分析 李在明はいかにして勝利したのか?」で、氏の新アジア戦略について、「米国、日本、ロシアなどとの関係を均衡的に発展させ、地域戦略と協力を推進している」ことが勝因の一つだったと結論づけている。

 中国が秋波を送ったかのような新アジア戦略で思い出されるのは、盧武鉉元大統領の「バランサー論」だ。これは盧元大統領が就任2年目に提唱したもので、北東アジアでの勢力均衡を図るために、韓国が日米中露などと等距離外交を行うというもの。しかし、その結果は散々で、米韓関係を極度に悪化させただけだった。

 李在明大統領は就任演説で、「堅固な米韓同盟をもとに日米韓協力を固め、周辺国との関係も国益と実用の観点から接近する」と、バランサー論に近い考えを示している。日本で長年勤務した元韓国外交官は、新アジア戦略の危険性をこう指摘する。

 「自主的外交、等距離外交は民族主義的傾向が強い進歩派に根強い考え方です。そのため、おそらく早い段階から中国に接近すると思います。もちろん、韓国外交の基本は米韓同盟ですが、日米の立場からは『離反』に映るでしょう。米中対立が深刻な国際情勢の中で、韓国が米中を天秤にかけるような外交は『二兎を追う者は一兎をも得ず』に陥ります」


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