在韓米軍削減が誘発するもの
筆者は、昨年12月の非常戒厳宣布の翌日「<緊急解説>韓国が非常戒厳令、尹大統領が出した最悪の悪手、その理由と朝鮮半島で起こりうる最悪のシナリオ」で、朝鮮半島で起こり得る最悪のシナリオとして、トランプ政権下で李在明政権が発足、在韓米軍が撤退し、第2次朝鮮戦争が勃発――と提示していた。荒唐無稽と笑い飛ばした方も多かっただろうが、現実は筆者の見立てと近い形で動いている。
5月22日付ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「在韓米軍4500人の移転検討、グアムなどに 国防総省が選択肢の一つとして検討」というスクープを発した。米韓防衛当局はこの報道を即座に否定したが、筆者が知る限り韓国の外交・防衛当局は蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。ある陸軍退役将官は語る。
「トランプ政権による関税交渉に対して、韓国政府は国防と貿易は別問題という姿勢を示しているが、いつかは在韓米軍削減問題を突きつけられると考えていた。米軍はかねてから韓国に張り付けている陸軍1個旅団をインド太平洋地域で活用する『戦略的柔軟性』を検討している。4500人という規模は、この旅団に相当する。WSJの報道は米側の観測気球かも知れないが、今の金正恩の動きを見る限り、第2の『アチソンライン』のようなメッセージになりかねない」
退役将官の話を補足すると、在韓米軍の主力は陸軍で、1個ストライカー旅団戦闘団を9カ月毎にローテーションさせているが、このローテーションが中断されるという話は何度も俎上に上っていた。最近では、アジア安全保障対話(シャングリラ会合)出席のためにシンガポールを訪れた米国防当局関係者が5月30日、AP通信に「今後の(在韓米軍)兵力配置規模は北朝鮮から韓国を防御するだけでなく中国を抑止するのにも最適化されるだろう」と、在韓米軍削減の可能性を示唆するコメントを残している。
そして、アチソンラインとは、1949年にアチソン米国務長官が示した米国の防衛線のこと。防衛線から朝鮮半島が除外されたことで、金日成氏は南侵を決断した。いま対米核抑止力を確保した金正恩国務委員長は、通常兵器の近代化を推し進め、大規模な演習・訓練の視察を続けている。