2025年6月17日(火)

WEDGE REPORT

2025年6月9日

台頭する韓国の核武装論

 これまで李在明大統領の選挙公約と関係者のコメントから、新政権の安全保障政策の見通しを述べてきた。李在明氏が自主的外交を推進して中国に接近すれば、トランプ政権は在韓米軍削減でプレッシャーをかけ、米韓関係が再び悪化するおそれがある。中国の覇権主義と北朝鮮の核・ミサイル開発の動きが強まる中で、米韓関係の悪化は日本に大きな影響を与える。

 ただし、その影響はこれまでの「反日」というガス抜きとは異なり、韓国の「核武装論」という形で表出してくるかもしれない。

 韓国の核武装は朴正煕大統領時代に検討されたこともあるが、現在は米国への不信感、つまり、北朝鮮が核保有したことによって、米国が北朝鮮と戦えなくなったという懸念から論じられている。

 核武装論を提唱する世宗研究所の鄭成長副所長権限代行は、6月4日の韓国紙へのインタビューに「米国は韓国の脅威である北朝鮮よりも中国抑止に一層注力すると予測される。このような状況で新政権が、すでに失敗した北朝鮮の非核化政策に固執すれば、韓国の安保環境はさらに危うくなる」とし、「トランプ大統領を説得して、核燃料再処理施設とウラン濃縮施設を持てるよう米韓原子力協定を早期に改定しなければならない」と答えている。

 鄭副所長は昨年2月に東京で開かれたシンポジウムで、「日韓がともに核武装して、韓国が北朝鮮を、日本が中国を抑える必要がある」と主張していた。世宗研究所とは韓国外交部所管のシンクタンクで、政策立案に影響力を持っており、政治家のポピュリズム的な発言ではないことを押さえなければならない。

 実際、米エネルギー省は今年3月、韓国を安全保障や核不拡散などで注意を要する「センシティブ国」に指定した。同盟国の指定は異例で、中国やロシア、北朝鮮と同列に扱っている。

 李在明政権について、日本ではいまだ反日大統領の誕生というような見方もあるが、反日どころではなく、安全保障政策の如何によっては、尹錫悦政権で進んだ日米韓の防衛協力体制が霧散する危険性をはらんでいる。さらには民族主義・自主的外交の帰趨として、核武装を選択することも絵空事ではない。

 「実用主義」の李在明大統領を日米側に引き止めるには、名を捨てて実を取るよう仕向けるほかないだろう。李在明大統領の新アジア戦略と、韓国をめぐる中国との綱引きに対して、日米両政府がどのように対応していくのか真価が問われる。

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