2025年7月13日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2025年7月5日

故郷に命を懸ける

宝島
真藤順丈
講談社文庫 924円(税込)

宝島 真藤順丈 講談社文庫 924円(税込)

 米国統治時代の沖縄。「戦果アギヤー(戦果をあげる者)」と呼ばれる若者たちがいた。基地に入り、食料品などを盗み出し、苦しい生活をする人々にも配った。そんな実在した若者たちが本書の主人公。かつてない「戦果」を狙って侵入した嘉手納空軍基地。ここで、皆の英雄だった兄貴のオンちゃんが消えてしまう。なぜか? 宝とは何か?……。登場人物たちは少年少女時代に沖縄戦で親を亡くしており、米軍基地があるがゆえに起きる理不尽が襲いかかる。物語の舞台は「コザ暴動」までだが、今に続く沖縄の人々の苦悩が描かれた第160回直木賞受賞作品である(文庫版上下巻)。

沖縄戦の戦死者遺族の手紙

「沖縄戦」指揮官と 遺族の往復書簡 ずっと、ずっと 帰りを待っていました 浜田哲二、浜田律子 新潮社 1760円(税込)

 24歳にして約千人の部下を率い、沖縄の激戦地を生きた伊東孝一大隊長は、復員後、戦死した自身の部下の遺族に向けて600もの詫び状を送っていた。本書の書き手は、詫び状への返事である356通もの遺族からの手紙を、存命する遺族に返還して、故人やその後の家族の話を聞いていく。自身の夫や息子の戦死を知り、それでも前を向き「新日本建設」への誓いを文章にしたためる家族、一方で国による戦死者の扱いを嘆く家族……。終わらない戦争がまざまざと書かれている。

沖縄の見方の一つとして

沖縄ノート
大江健三郎
岩波新書 1034円(税込)

沖縄ノート 大江健三郎 岩波新書 1034円(税込)

 1965年春に、初めて沖縄を訪れたことを皮切りに、その地に何度も足を運んだ大江健三郎。そこでの取材や見聞きした内容を通して、何を感じ、何を考えたのかが文学的に表現されている。沖縄を見つめる中で改めて日本人とは何かを考え直す同氏が、実は「多様性にたいする漠然たる嫌悪の感情」を持つ国民なのではないか、など葛藤する様子も印象的だ。出版は本土復帰前の70年。メディア報道とは違う目線で語られた本書から、当時の沖縄の一面を垣間見ることができる。

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Wedge 2025年7月号より
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち

かつて、日本は米国、中国と二正面で事を構え、破滅の道へと突き進んだ。 世界では今もなお、「終わらない戦争」が続き、戦間期を彷彿とさせるような不穏な雰囲気や空気感が漂い始めている。あの日本の悲劇はなぜ起こったのか、平時から繰り返し検証し、その教訓を胸に刻み込む必要がある。 だが、多くの日本人は、初等中等教育で修学旅行での平和学習の経験はあっても、「近現代史」を体系的に学ぶ機会は限られている。 かのウィンストン・チャーチルは「過去をさかのぼればさかのぼるほど、遠くの未来が見えるものだ」(『チャーチル名言録』扶桑社、中西輝政監修・監訳)と述べたが、今こそ、現代の諸問題と地続きの「歴史」に学び、この国の未来のあり方を描くことが必要だ。 そこで、小誌では、今号より2号連続で戦後80年特別企画を特集する。前編では、戦後日本の歪みを一身に背負わされてきた「沖縄」をめぐる諸問題を取り上げる。


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