2025年12月5日(金)

食の「危険」情報の真実

2025年7月14日

日本で増える中咽頭がん

 では、これらのがんは今どうなっているのか。公益財団法人「がん研究振興財団」のがん統計(2025年)によると、子宮頸がんにかかる女性は年間1万690人(死亡2949人)、同様に中咽頭がん(男女合計)にかかる人は年間4879人(同1468人)、肛門がん(男女合計)は同1219人(同569人)、陰茎がん(男性のみ)は同518人(同165人)となっている。これらのがんの半数以上はHPVが原因とみられる。

 中でも日本では中咽頭がんが年間5%程度の率で増えている。中咽頭がんといえば、音楽家の坂本龍一さん(23年3月死去)が公表するといった事例としても知られている。

 同議員連盟総会に出席した丹生健一氏(神戸大学耳鼻咽喉科頭頚部外科学分野教授)は「中咽頭がんは働き盛りの世代がかかりやすいので、中咽頭がんの増加は国民経済的にも生産性の低下を招く。このまま男性の接種が進まないと20年後には、中咽頭がんが子宮頸がんよりも上回ることも考えられる」と危機感を訴えた。

 こうした状況があることから、「日本産科婦人科学会」や「日本感染症学会」など24の学術団体が参加する「予防接種推進専門協議会」(岩田敏委員長)は23年3月、「HPVワクチンの男性に対する定期接種化に関する要望」を厚労省に出した。その中で「中咽頭がんと陰茎がんの約半分はHPVに起因し、肛門がんのほとんどはHPVによるものだ。男性に定期接種を拡大すれば、HPV関連疾患の罹患、死亡を減らすことが期待される」と指摘した。

70を超える国・地域で接種は当たり前

 この要望書に見られるように、HPVワクチンで予防できるのは子宮頸がんだけではない。世界では子宮頸がんも含め、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、尖圭コンジローマをHPV関連疾患ととらえ、男女双方がHPVワクチンを接種して減らそうという動きが潮流になっている。

 子宮頸がんは主に男女の性交渉で感染するため、男性が接種すれば、女性の子宮頸がんを減らすことができるという点も重要だ。つまり、子宮頸がんを減らすためにも男女がともに接種するのがベストだ。

 現在、海外では70を超える国・地域で「HPVワクチンは性別を問わない接種」が常識となり、公費助成による接種が当たり前になってきている。ところが、日本では2価、4価、9価の3種類(「価」の数字は予防するウイルスの型の数を表す。数字が大きいほうがより多くのウイルスに対応できる)のHPVワクチンが女性に認可されているが、男性は4価しか承認されていない。男性も自己負担(3回で約5万~6万円)で接種できるが、無料の定期接種にはなっていない。

 東京都や北海道、山形、茨城、埼玉など一部の自治体では男性の接種へ公費助成を出しいているが、数は少ない。気づけば、主要7カ国(G7)の中では日本だけが男性の定期接種が実現していない国になってしまった。

費用対効果

 厚労省は男性の定期接種化の費用対効果が低いとの見解を示している。ただ、女性の接種率が低い中でも男性が接種すれば、男性の肛門がんや中咽頭がんが減り、さらに女性の子宮頸がんも減らすという間接効果を考慮すれば、費用対効果は十分にあるという資料も示されている。

 前出の議員連盟総会では、「男性が接種すれば、女性だけの接種に比べて、HPV関連疾患の全体が減ることになり、費用対効果は決して低くない。それは海外の研究報告で認められている」との意見も出た。

 男性の接種効果をどこまで含めて検討するかによって費用対効果の数値が変わるため、今後は、この点が議論になりそうだ。


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