2025年12月5日(金)

食の「危険」情報の真実

2025年7月14日

日本国内でも起こる〝格差〟

 世界では男女を問わない接種が常識化している中、日本では依然として女性の接種率も低い。そうした中、興味深いことが分かった。都道府県別の接種率の格差だ。

 医療関連サービスを提供する企業「エムスリー」が構築した診療情報データベース「JAMDAS」の推計によると、今年3月末時点の累積初回接種率(16歳時点)の全国平均は約57%で、都道府県別に見ると際立つ差があった。

 接種率が一番高かったのは山形県(約84%)、次いで秋田県(約74%)、岡山県(約68%)、青森県(約67%)、千葉県(約67%)の順だった。このほか、島根、新潟、富山、鳥取、東京、岩手、宮崎、宮城、福井、滋賀、広島、愛媛、京都、石川、山口が60%台だった。

 一番低かったのは、沖縄県(約25%)で、次いで山梨(約43%)、鹿児島(約44%)、和歌山(約45%)、大分(約48%)だった。沖縄県の接種率はトップの山形県の半分以下で、山梨、鹿児島、和歌山も山形に比べるとかなり低いことが分かった。

 山形県が高いのは、県をはじめ県内の自治体や医師会が熱心に接種を勧めたことが挙げられる。たとえば、山形県南陽市は女性だけでなく、男性の接種に対しても積極的姿勢を見せ、2年前から、男性のHPVワクチン接種費用の全額を補助する取り組みを県内で初めてスタートさせている。

 南陽市は25年度もホームページで男性への接種を積極的に呼び掛け、「男性が接種することで、男性自身の肛門がんや尖圭コンジローマの予防だけでなく、大切なパートナーの子宮頸がんの予防にも一定の効果が期待できる」と熱心に訴えている。こうした先進的な取り組みがメディアで報道され、他の自治体にも影響を与えたようだ。

 世界を見ると、豪州、英国、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどの国では対象年齢の約8~9割が接種を受けており、いずれ子宮頸がんはなくなるのではと言われている。日本では山形県と秋田県がようやく先進国並みになったとはいえ、全体ではまだまだ低い。

 この都道府県格差に対して、HPVワクチン問題に詳しい大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室の上田豊講師は「自治体の取り組む姿勢と県民性が大きく関係しているのではないか。HPVだけでなく、他のワクチンもおおむね東北地方・北陸地方が高く、九州・沖縄は低めだ。今後の子宮頸がんの動向は、受診率とも関係するので、簡単に予測するのは難しいが、都道府県での接種率の大きな差がこのまま続いていくと、将来、子宮頸がんの罹患率の差につながってしまう可能性が強く懸念される」と話し、格差是正に向けた自治体の取り組みが必要だと強調する。

 日本の遅れの背景にはメディア報道も関係している。日本のメディアはこれまでHPVワクチンを説明するのに「子宮頸がんを予防するワクチン」といった呼び名を長く使ってきた。そのイメージが強い限り、男性の関心は高まらない。今後、メディアは「HPVワクチンは男女を問わず、HPV関連疾患の予防に寄与する」というメッセージを発信していくべきだろう。

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