2025年12月5日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年8月24日

アルゼンチンもチリ同様に経済全体が重度の中国依存症

 アルゼンチンはミレイ大統領就任以前の時代に財政難をカバーするために大型インフラプロジェクトを中国に頼った。2014年には包括的戦略パートナーシップ、2017年にアジアインフラ投資銀行に加盟、2022年に一帯一路構想に参加とトントン拍子に中国に傾斜していった。

 中国の直接投資で大きいのは鉱物資源・エネルギー分野である。2022年には中国企業がアルゼンチンのリチウム生産会社に9.6億ドルを出資。

 2010年には中国国営海洋石油(CNOOC)がアルゼンチン最大の民間総合石油企業に出資。2015年には中国石油化工集団(SINOPEC)がアルゼンチン国営石油(YPF)と石油ガス開発のパートナー協定を締結している。

アルゼンチンの石油ガス生産の現在と中国の深謀遠慮

パタゴニア北部の油田地帯の夜明け。夜行バスの車窓から夜中に多数の石油 掘削リグとフレアガスの炎が見えたので油田地帯と気づいた。フェルナンド氏によると Vaca Muerta(死んだ牛の意味)という巨大な地層があり原油・天然ガスが生産されて いるという。同氏の作業現場もこの地層だ

 ちなみにアルゼンチンはパタゴニア北部での石油ガスの開発に成功して2026年の目標を原油生産日量100万バーレル、天然ガス生産163百万立方メートルに設定。2023実績では原油・天然ガスともに世界19位である。

 旅行中知り合ったコロンビア人石油掘削熟練労働者のフェルナンド氏58歳はパタゴニア油田の操業会社と1年契約(更新可能条件付き)した。同氏はコロンビア、ボリビアでも石油掘削に従事したベテラン。同氏によるとアルゼンチンは現在自国消費とパイプラインとトラックでのチリ向け輸出に当てているが大西洋から輸出するべくパイプラインを建設中という。

 筆者は1995年頃に面談した中国国営石油探査会社の幹部の話を思い出す。彼は米国で石油探査の博士号を取得した専門家。当時南米ではベネズエラとエクアドルだけが産油国であった。当時から中国は南米での石油資源権益確保に動いており欧米系石油探査会社と比較したら只同然の費用でペルー、コロンビア、チリなどで石油探査作業を請け負って博士自身も陣頭指揮したと経験を語った。面談の翌週にはチベットの4000メートルの高地で探査作業すると言った。中国共産党の超長期的戦略と中国人の逞しさに感嘆した記憶がある。

中国の脅威は債務の罠だけではない、世界の安全保障上の脅威にも

ブエノスアイレス旧港。現在は遊覧船や小型船だけが利用。新港の最新ター ミナルは遠く見えるガントリークレーンのあたりらしい

 3月24日。親子2代警察官という33歳のエリート警察官マウロは嫌中派の論客。中国の脅威は経済支配にとどまらないという。

 ブエノスアイレス港の最新ターミナルは中国の融資により中国企業が建設したが開業以来寄港する船舶がほとんどなく遊休状態という。港湾当局は融資を返済できず中国がターミナルの経営権を握ることになるとマウロは懸念した。

 アルゼンチンの排他的経済水域で中国漁船が違法操業して地元漁民が被害を受けているという。多数の中国漁船が連携して長期間違法操業している。彼らはマゼラン海峡を通過して漁期に合わせて太平洋と大西洋の漁場を行き来している。ウルグアイ、アルゼンチン、チリ、ペルーなどが被害を受けている。アルゼンチン政府は中国に抗議しているが例により中国政府は違法行為を厚顔で完全否定しているようだ。

 十数年前に中国はパタゴニアに地元州政府と契約して宇宙線観測センターと称して巨大なアンテナを建設した。ところが敷地は立ち入り禁止となっており実際どのような活動をしているのか州政府も把握していないという。200ヘクタールの広大な敷地で何が行われているのか。マウロは中国が巨大アンテナを軍事利用しているのではないかと推測していた。注)ネット情報では近年米国は対抗措置として付近にヘリポート、兵舎を備えた人道支援センターを作り監視しているようだ。

 さらにアルゼンチン最南端の南極大陸の玄関口であるウシュアイアで中国は港湾建設プロジェクトを州政府と進めているという。ウシュアイアはマゼラン海峡に面しており中国が建設する港湾が軍事利用されれば中国海軍は大西洋と南極大陸へのアクセスが容易になるとマウロは危惧した。

 問題はミレイ大統領がリバタリアン(自由至上主義者)であり中国の各種プロジェクトを民間企業の問題として不干渉の立場を維持していることだとマウロは指摘。大統領は極力小さな政府を目指して中央政府予算を大幅削減しており地方政府はインフラ建設予算を自分で手当てする必要に迫られる。ここに中国がつけ入るスキが生じるという分析である。

 マウロ青年の懸念が現実となれば南米の安全保障に関わるし米国にとっても看過できない事案であろう。地球の反対側ではあるが我々日本人もアルゼンチン・チリにおける中国の超長期戦略を注視する必要があるのではないか。

以上 次回に続く

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