労働教養制度の廃止を求めて活動した人は他にも多数いたが、浦弁護士は、「自分は重慶に的を絞り、うまくタイミングをつかんだ」と言う。浦弁護士は北京市で弁護士資格を登録しており、資格更新の年次審査なども北京市で行う。重慶市の司法局は管轄外の弁護士の行動に関心を持たず、北京の弁護士は重慶市でなら活動の余地をみつけやすい。また、薄煕来が失脚し、薄煕来時代の政策に世論も中央政府も厳しい目を向けているタイミングを狙ったのだという。今年2月の東京大学での講演会において浦弁護士は、「薄煕来が政治局常務委員になるのを防いだのは、中国が進歩した証拠だ」と豪快に笑っていた。
「党規国法」へのチャレンジ
これまで数多くの社会的に注目される裁判を担当してきた浦志強だったが、中国にはまだ多くの問題があると考えていた。そして、浦弁護士が次に設定した目標は、「双規」の撤廃だった。
「双規」とは、汚職等の規律違反に対して党の紀律検査委員会が規定した場所と時間に出頭を求めて取り調べることで、逮捕状を取るといった法的手続きはまったくない。建前は任意出頭だが、突然連れ去られることが大半であり、拷問や自白の強要が問題となっている。中国語に「党規国法」という言葉があるが、党の規則は国法を超越する。党規は権力闘争の手段として恣意的に利用されることもあり、ライバルを双規で陥れようという者もいる。
中国では2013年、双規の取り調べで3人が死亡した。浦弁護士は、弁護士の斯偉江、呉鵬彬らと共に、このいずれの事件の現場にもすぐに駆けつけ、家族の依頼を受けて代理人を務めた。1人目は4月9日、双規1カ月の間に氷水に頭からつけるなどの拷問で死亡した浙江省の国有企業・温州市工業投資集団の技術者・於其一。全身に無数の傷があり、水死とされたが、当然家族は納得できなかった。浦志強らに弁護を依頼して裁判を起こし、取り調べの担当官ら6人が故意傷害罪で4~14年の懲役刑に処された。双規に関連する死亡事件で、裁判に勝訴するのは画期的なことだった。
2人目は4月23日、全身痣だらけの状態で死んでいるのが見つかった河南省三門峡市中級裁判所の副所長・賈九翔。「心臓病を発症した」と党当局は説明したが、心臓病の人が、全身痣だらけで死ぬわけがない。このケースでは、河南省の紀律検査委員会と検察院が介入して合同調査チームを設置し、立件させず、賠償金による解決を図ろうとした。
3人目の被害者は黄梅県地震局長の銭国良で、4月8日に理由もわからず連れ去られた。家族が次に会った時には病院で植物人間状態になっており、6月19日に死亡した。浦弁護士は自分で撮った銭国良の顔が腫れ上がり、白目をむいたまま、チューブにつながれている写真を私に見せて、こう言った。「党員は表立っては言えないが、内心、“浦志強、双規をなくしてくれ”」と思っている。いつか、自分も双規に遭う可能性があると恐れている」