実際に、現在双規の状態にある共産党最高指導部のメンバーで、政治局常務委員だった周永康は、そう思っているのではないか。香港の雑誌「明鏡」は、汚職額が1000億元(約1兆7000億円)に上ると報道している。浦弁護士は2013年、周永康が党の政法委員会書記の立場から政治的な弾圧を主導したことを中国版ミニブログの微博(ウェイボ)で批判し、話題になった。当然、浦弁護士の微博は即座に閉鎖された。
中国の問題を自らの問題ととらえる
浦志強はここ数年、何度も日本を訪問し、日本の研究者や市民団体と交流してきた。浦弁護士は以前、こんな風に言っていた。「正直言うと、自分は日本に対してよい印象は持っていなかったし、特に関心もなかった。でも、日本のアニメが大好きな息子の影響で、日本をもっと知ろうと思うようになった」
浦弁護士の息子は、現在日本のある大学に通っている。「小さい頃から父親の周辺にいる弁護士、記者、警察などを通して、中国の社会を見てきた」息子は、父親の拘束について、「常に心の準備をしていた」と気丈な様子を見せた。浦弁護士はよく息子について、「自分の理想を押し付けるつもりはなく、どんなことがあっても、彼の意志を尊重し、彼を理解し、支えたいが、他人の権利を守ろうとする人間にはなって欲しい」と話していた。
息子を見守る浦弁護士のやさしい目が浮かんでくる。今回、このような形で浦弁護士が拘束されたことについて、私は浦弁護士の人となりをよく知る身として黙ってはいられなかった。そして、5月13日に、北海道大学のチームとともに、「彼らの身体、生命が危機にさらされないよう、隣人として祈念する」との公開書簡への賛同を呼びかけた。
こうして日本が先陣を切って、中国の問題に声を上げるのはめずらしいことだ。特に中国に関わる仕事をしている者はリスクを考えなければならず、研究の客観性を保つために、こうした活動と距離を置きたいという学者もいる。それでも2日間で161人もの賛同を得たのは、理性と理想をもち、各分野で地道に努力を続けてきた知識人たちの姿が、多くの人の心を動かしたからだろう。
書簡は、中国当局に宛てた抗議や要望書ではない。浦弁護士のような「良識ある人々が中国社会のさらなる発展と東アジア地域の平和・共存のため、引き続き大いなる貢献を行いうることを希求」し、「この真摯な願いと祈りを、中国の良識ある人々と共有することを切に望む」と記した。当然、「良識ある人々」は体制側の人も排除しない。