2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2014年6月6日

中露関係は『離婚なき便宜的結婚』

 中露首脳会談で署名された「共同声明」及び中露海軍合同演習の内容を見る限り、中露間の戦略協調が質的に深化したと判断する材料は見当たらない。しかも、ロシアは欧米牽制の観点から中国に接近する素振りは見せているものの、安全保障やエネルギーの分野で近年進展しつつある日露関係は維持したいというのが本音とみられる。ロシアは、将来的な中国台頭を視野に入れて、2013年11月から「日露外務・防衛閣僚協議(2プラス2)」を立ち上げて、日本との安全保障対話を強化しているほか、欧州の脱ロシア資源の動きを受けて、中国に次いで日本を新たな資源輸出先として重視しているからである。

 中露関係は「離婚なき便宜的結婚」と呼ばれるように、軍事同盟に発展することも、決定的に対立することもあり得ない。しかし、両国の国力格差が広がっており、ロシアが中国のジュニア・パートナーにならないためにも、ロシアはインド、日本、ベトナム、韓国など第三国との戦略的関係を強化して、外交上のバランスを保つ必要に迫られている。ウクライナ問題で欧米との関係が悪化しても、この構図が容易に変化するとは予期されない。

 他方、任期中の領土問題解決を公言する安倍政権も、対露関係改善に努めている。2013年12月に策定された「国家安全保障戦略」では、「東アジア地域の安全保障環境が一層厳しさを増すなか、安全保障及びエネルギー分野を始めあらゆる分野でロシアとの協力を進め、日露関係を全体として高めていくことは、我が国の安全保障を確保する上で極めて重要」と記された。

 前述した通信社との会見において、プーチン大統領は、ウクライナ問題で日本が対露制裁に加わったことに驚いたとし、領土問題を討議する用意が日本にあるのかと述べたため、国内メディアは領土交渉中断を示唆した発言と報じた。例えば、5月25日付の朝日新聞は、「ロシアのプーチン大統領は24日、日本がウクライナ問題でロシアに制裁を科したことについて初めて発言し、『日本は北方領土問題の話し合いも中断するのだろうか』と述べた。北方領土交渉を続けられる状況ではなくなったという認識を示したものだ。イタル・タス通信が伝えた」と報じた。

 同様の趣旨の報道ばかりが目についたが、発言の全体をみると、プーチンは、ロシアには交渉の用意があり、4島全てが交渉対象であり、解決は不可能ではないとも明言している。しかも、会見直後に日本の通信社が行った質問に対して、今秋に予定される訪日は、「招待があれば当然行く」と文書で回答している。日本が対露制裁に踏み切ったことに不快感を示しながらも、欧米に同調することなく、独自の対露外交を貫くよう日本に求めているのである。

 ウクライナ情勢をめぐって欧米から対露批判圧力が強まるなか、日本がどこまで独自の対露外交を貫くことができるのか、新たな正念場を迎えつつある。それでも、中露結束を過度に警戒して、日本がロシアに前のめりになる必要はないであろう。少なくとも、欧米や中国と異なり、ロシアからすれば、日本はウクライナ問題の当事者ではなく、しかもロシアの影響圏の侵害者にもあたらないからである。

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