なお、暫定政権および新政権の東部の親露派に対する政策については多方面から苦言が呈されており、特にそもそも東部の親露派を「テロリスト」と呼び、彼らに対する対策を「テロリスト掃討作戦」としたことからして間違いだったと主張する欧米の研究者は少なくない。それにより、曲がりなりにもウクライナ国民の一部を「テロリスト」という向こう側の人間に追いやり、対話の可能性をなくしてしまったばかりか、東部親露派を先鋭化させてしまったからである。
だがもっといえば、東部の親露派が誰も統制できない状況になっていたというのも事実である。前述のように、親露派はプーチンの住民投票延期の要請を無視したことからも、プーチンの自由になる存在ではないと考えられ、ウクライナ政権の主権が及んでいないのも言うまでもない。そして、ウクライナの混乱にほぼ何もできていない欧州には、無力感が広がっている。つまり、現状は、4月に行われた4者協議のコントロールが及ばない状況なのである。
和平への動きを積極化させる
ポロシェンコだが…
ポロシェンコ新大統領就任後も、ウクライナ東部の情勢は更なる混沌状態に陥っている。前述のように、ポロシェンコは短期収束を掲げ、空爆を含む大規模な掃討作戦を行ったが、それは裏目に出たと言ってよい。親露派もロシアから戦車やミサイルをはじめとした多くの武器や兵器の補給を受け、さらに対抗姿勢を強めていき、6月13日には、ルガンスク市で少なくとも49人が乗った同国軍の軍用機が撃墜される事件も起きた。また、ウクライナ側も戦力を増強し、戦車をロシア側に越境させるなど、緊張はさらに増していったのである。
そして、6月17日夜、プーチンとポロシェンコは電話会談し、両国関係やウクライナで活動していたロシア記者の死亡のほか、東部での停戦の可能性について議論した。なお、同日、ウクライナのロシアと欧州を結ぶ主要パイプラインの一つ「同胞パイプライン」が爆発、炎上する事件があり、テロの可能性も問われている。事故による欧州へのロシアによる天然ガス輸出への影響はないが、いやな空気が流れていた。
そして、プーチンにお墨付きを得たのか、ポロシェンコは和平への動きを積極化させていく。ポロシェンコは、19日から東部の約400人の有力者と対面して和平案への協力を仰いだが、和平計画への全面支持は得られなかった。特に問題視されているのは、政府が武装派との交渉には一切応じない立場を堅持し続けていることだろう。東部の経済を掌握し、政治力も強いウクライナ最大の富豪リナト・アフメトフ氏は話し合いを経なければ平和は得られないとして、親露派との協議を拒否する政府の姿勢を19日に批判している。ロシアもウクライナ政府が対話に踏み切らないことを再三批判してきた。
それでも、ポロシェンコは6月20日夜にドネツク州の軍司令部を訪問し、政府軍に対して東部での戦闘の27日までの一時停戦を命じ、15項目の包括的な和平計画を発表した。親露派に対しては、戦闘員への恩赦やロシアへの退路提供も持ちかけた上で、武装放棄を呼びかける一方、投降しない勢力は27日以降に徹底的に掃討するとも警告した。また、東部の親露派市民に対し、ロシア語の保護や地方分権化、雇用確保、総選挙の繰り上げ実施案なども提示した。