プーチンの延期要請受け入れず
住民投票実施
そして、追い打ちをかけるように、5月11日には東部のドネツク州、ルガンスク州で「国家の自立」を問う住民投票が決行された。欧米の対ロ批判が高まる中、実はプーチン大統領は投票の延期を求めたものの、東部親露派はそれを受け入れなかった。その一方で、東部の親露派は、ロシアの政党『祖国』と深くつながり、住民投票や運動の進め方、記者会見の発言内容に至るまで、指導を受け、また武器や物資の支援も受けていたと言われる。
なお『祖国』は、旧ソ連諸国の再統合を掲げる政党であり、プーチン政権に副首相を送り込むなど、それなりの政治力を持っている。ロシアによるクリミア編入の際にも、クリミアのアクショーノフ首相を支えるなど、大きな役割を果たしたと言われている。このことから、東部の混乱に『祖国』などロシアの一部の勢力が大いに関わっていることは間違いない一方、プーチン大統領が東部を煽動しているわけではないと言えそうである。住民投票は、戦闘により行われなかった場所があるだけでなく、数多の選挙違反が確認されており、完全に非合法のものであった。だが、約9割が独立を選択したとして、ドネツク、ルガンスク両州は独立宣言をし、「人民共和国」の成立を宣言したうえで、ロシアに編入を求めたのであった。
ポロシェンコの失策
さらに、ウクライナ大統領選挙の前日である5月24日、ドネツク、ルガンスクは両「人民共和国」を統合して「共和国連合」である「ノヴォロシア」(新ロシアの意)を成立させる文書に署名したのだった。そして、25日の大統領選挙も、東部親露派の幹部が「外国の選挙なので無関係」として投票に参加せず、そもそも東部の投票所の多くが親露派の妨害行為で閉鎖されたため、投票の意思を持つ市民も投票ができなかった。
ウクライナ大統領選挙ではペトロ・ポロシェンコが当選を果たしたが、東部親露派は、新大統領とは「ロシアの仲介がある場合のみ」会談の用意があるとしたが、ウクライナ政府は「テロリストとは交渉しない」という立場を貫いた。一方で、5月26日から東部における掃討作戦を強化した。親ロ派がドネツク空港を占拠したのを受け、ウクライナ軍が空港上空に軍戦闘機4機と軍用ヘリコプター7機が旋回し、空港を空爆したのである。
また、市内の鉄道駅でも軍と親ロ派が衝突し、市民にも死傷者が出たほか、ドネツク市内の自動車工場も攻撃を受けた。翌27日には、ウクライナ政府が空港を奪還するも、親露派に50人以上の死者が出たとされ、楽観視されていたウクライナ新大統領とプーチンの対話の実現に暗雲が立ち込めた。
別稿(6月26日掲載予定)で詳述するが、そもそもウクライナ大統領選挙を認めないと言っていたロシアが、方針を転換して公認するに至っていた中での、この東部に対する攻撃の強化はマイナスの影響ばかりを残したと考えられる。ポロシェンコ大統領は、東部の混乱が長引くのは何としても避けるべきで、早期に安定化させるために短期集中で片を付けようと、強硬策をとったが、結果が伴わなかったことを考えれば、民間人にも死傷者を多く出し、また親ロシア派をさらに刺激してしまったこの作戦は失策であったと言わざるを得まい。