米首都ワシントンの総合文化施設「ジョン・F・ケネディ舞台芸術センター」の名称に、ドナルド・トランプ大統領の名前が加えられたことを受け、新たに2組のミュージシャンが30日までに、同施設での公演を取りやめた。
ベテランのジャズバンド「ザ・クッカーズ」は、大みそかに予定していた2公演を中止すると、公式サイトで発表した。同バンドは声明で、公演中止という決定は「とても素早くまとまった」ものだとしている。トランプ氏やケネディ・センターへの言及はない。
また、ダンスカンパニー「ダグ・ヴァローン・アンド・ダンサーズ」も29日、来年4月に予定していたケネディ・センターでの2公演を中止すると、インスタグラムに投稿。同施設の名称にトランプ氏が自分自身の名前を加えたことを受け、「かつて偉大だったこの施設に、私たち自身が入ることも、私たちの観客に入れるよう私たちから求めることも、もはや受け入れられない」と付け加えた。
ケネディ・センターの会長で、トランプ氏に近いリチャード・グレネル氏は、こうした公演のキャンセルは「一種の錯乱症候群だ」とした。
同氏は、公演を取りやめたアーティストたちは「前任の極左的な指導部によってブッキングされていた」と述べた。
「（アーティストたちの）行動は、前体制が、政治信条に関係なくすべての人のために演奏するアーティストよりも、極左の政治活動家を優先してブッキングしていたことを証明している」と、グレネル氏は付け加えた。
施設名変更で公演中止相次ぐ
ザ・クッカーズは公演中止に関する声明の中で、「ジャズは闘争の中から、そして自由にとことんこだわることから生まれた。思考の自由、表現の自由、そして満ち満ちた人間の声という自由だ」と述べた。
そして、「私たちは観客に背を向けるつもりはない。再びステージに立つ時は確実に、音楽を全面的に、そしてその場にいるすべての人の存在を全面的に、祝福できる空間にしたい」とした。
バンドのドラマー、ビリー・ハート氏は、公演を中止するという決定に、施設の名称変更が影響したのは「明らか」だと、米紙ニューヨーク・タイムズに語った。
フォーク歌手のクリスティ・リー氏も最近、来年1月の公演を中止すると発表した。
「アメリカの歴史が、誰かのエゴのために禁止したり、削除したり、改名したり、作り変えたりできるものとして扱われ始める時、私があのステージに立ったりしたら、夜に安眠できなくなる」と、リー氏はソーシャルメディアに投稿した。
先週にはミュージシャンのチャック・レッド氏が、施設の名称変更を理由に、2006年から毎年行ってきたクリスマスイブの公演を中止した。
ケネディ・センターのグレネル会長は、公演の中止は「政治的パフォーマンス」で「我々に相当の損害をもたらした」として、レッド氏に100万ドル（約1億5000万円）の損害賠償を求めた。
ケネディ・センターの理事会は18日、施設の名称を「ドナルド・J・トランプ・アンド・ジョン・F・ケネディ舞台芸術センター」に変更することを決定。19日には同施設の外壁にトランプ氏の名前が追加され、公式ウェブサイトのロゴも「ザ・トランプ・ケネディ・センター」という表記になった。
トランプ氏は2期目の大統領就任後に、同施設の理事会メンバーを多数解任し、その後任に自身の側近たちを置いた。理事会はその後、トランプ氏を理事長に選出。ケネディ・センターの会長には、トランプ氏に近いグレネル氏が就任した。
同施設のウェブサイトによると、現在の理事会は、トランプ氏が任命した34人と、米国法に基づいた23人で構成されている。
一部の議員や法学者らは同施設について、1964年の連邦法によってジョン・F・ケネディ元大統領の名前が付けられているため、名称変更には連邦議会の承認が必要だと主張している。
ケネディ家族の複数メンバーも、この動きを非難している。ケネディ・センターという名称は、ケネディ氏の暗殺事件後に同氏を記念してつけられた。
ジョー・ケネディ3世元下院議員は、「ケネディ・センターは亡き大統領の生ける記念碑であり、連邦法によってケネディ大統領の名前が付けられている」と述べた。ケネディ元大統領は、ジョー氏の大伯父にあたる。
「誰が何と言おうと、リンカーン記念堂の名称を変えられないのと同じように、ケネディ・センターの名称も変更することはできない」と、同氏は付け加えた。
（英語記事 More artists cancel Kennedy Center shows after Trump name change）
