今後、よほどの反抗がない限り、軍における大規模な粛清は行われない。その代わりに忠誠を誓わせたのだ。軍の大規模な造反も生起しないだろう。習近平主席は、軍と手打ちを済ませた上で徐才厚を起訴したのだ。
強大な地方の権力
徐才厚の処分が決まらなかったため、2006年の上海党委員会書記・陳良宇事案の際の中央政治局常務委員・黄菊(当時)のように、「公開されず、逮捕されず、判決を受けず、表ざたにされない」という方式が適用されるのではないかという憶測も流れた。
陳良宇事案とは、上海のトップであった上海党委員会書記・陳良宇(当時)が社会保障基金を個人的な投資に流用し、違法に利益を得ていた事件である。これに関与していた黄菊は、結局、その罪を追及されず、彼の病死後、彼に連なる人たちが裁かれた。徐才厚が、膀胱癌で余命いくばくもないとされながら処分されたのとは大きく異なるのだ。
中国共産党中央は、日本で考えられているほど強力ではない。胡錦濤は、陳良宇を拘束するに当たって、上海市の武装警察責任者・辛挙徳を更迭し峡西省の武装警察主任・劉洪凱少将を任命している。劉少将は、胡錦濤に忠誠を誓い、陳良宇の拘束に貢献した。しかも、陳良宇を拘束したのは上海の部隊ではなく、江蘇省の部隊だった。上海の武装警察は上海市指導部の影響下にあり、中央の命令に従わないと考えられたからだ。
それほど、地方の力は強いのである。中国共産党中央は、基盤を持たず、各地方の権力の上に神輿のように担がれている。陳良宇事案は、中国指導部が地方に手を出すのがどれほど難しいかを示すものだ。
鉄道、石油利権集団との闘争を展開する習近平
日本では、習近平は権力掌握ができていないという評価もあるが、そうは考えられない。少なくとも、過去に誰も手を付けられなかった改革を実行している。既得権益を侵される権力者や地方、利権集団が反発し、種々の抵抗を示すのは当然である。
中国経済・社会は危機的状況にある。少なくとも中国指導部はそう認識している。改革を進めるために、組織、地方及び利権集団の権力掌握を進める必要があると考えているのだ。習近平主席は、軍の権力掌握を進めると同時に、鉄道及び石油といった利益集団を掌握するための闘争を展開している。