2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年8月4日

 アボットが、中国との協力を強化させること、特にFTAに熱心であることは、中国に、豪州が「中国の台頭を歓迎する」と言う時、それが真摯なものであると確信させるのに役立っている。さらに、中国の豪州とのポジティブな関係は、中国に、米豪同盟を受け入れやすくしている。中国は、豪州が、米国の対中封じ込め政策に巻き込まれることを良しとしないであろう、と指摘しています。

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 6月の米豪首脳会談で、豪州側は米豪軍事協力の強化を謳い上げましたが、それに対する中国の反応が、2011年のオバマ訪豪と海兵隊派遣決定の時と打って変わって、好意的なものだった点に、論説は注目しています。そして、中国の報道を引用して、FTAを含む中豪間の経済関係緊密化が、中国から見て、米豪関係強化の脅威が小さくしている、と指摘しています。

 これは、極めて注目すべき事象であると思います。中豪間のFTA交渉が機微な段階にあって、豪州の協力が必要な段階であるというような背景があるのかもしれませんし、あるいは、日本以外とは仲良くするという、中国の日本孤立政策の一環である可能性もありますし、より一般的に中国包囲網に突破口を作る政策かもしれません。しかし、例えそうであっても、中国がこれだけ戦略的柔軟性を持っているということは、今後の日本も含む西側諸国の対中外交において、注目すべき事例です。

 最近、中国の経済成長の将来を危ぶみ、中国の経済社会的崩壊を予見する評論が増えていますが、過去および現在の経済成長によって、ここまで大きくなってしまった中国にどう対応するかという、現実的な問題の方が重要でしょう。特に軍事面では、中国の軍事力に対する過去の投資の蓄積は恐るべきものがあり、これに如何に対応するかが、日本及び米国の安保政策にとって最大の問題だと思います。

 経済面では、豪州でも、インドでも、東南アジアでも、あるいは、EU、米国であっても、重要な貿易パートナーとしての中国との関係は、到底損ない得ない、という状況にあります。それは、日本にとって、今後の対インド、対豪州、あるいは、対東南アジア諸国外交において、最も機微な点です。

 その対策として考えられるのは、政経分離です。経済関係は本来両方が得をする場合に成立するものであり、一方だけが得をする関係という経済関係はあり得ません。その点、政治、安全保障関係とは本質的に異なり、安全保障と経済は全く別次元のものとして考えて良いと思います。ノーマン・エンジェルは、第一次大戦前に、もう西欧先進国間の戦争は無意味になったと論じましたが、大戦勃発に際して、カイザー、ツァー、英仏首脳、いずれの頭の片隅にも、経済相互依存関係に対する考慮などはカケラもありませんでした。

 ということは、中国との経済関係を今後とも深化させると同時に、米国を始め、インド、豪州などとの安保関係を強化して、実質上中国包囲網を形成することは、何ら矛盾するものではありません。それがそれで通るということは、まさにこの豪州の例で実証されていると言ってよいのでしょう。

 日本としては、日米同盟を始めとして、中国包囲網体制を着々と固める一方、中国との経済関係は今まで通り拡大強化するべきだと思います。特に、環境問題に対する技術援助などは、双方の利益になることであり、大いに進めるべきでしょう。

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