同じ石油危機でも
内容が大きく違う
経済産業省出身の北村氏は、1973年10月に起きた第一次石油危機の時には資源エネルギー庁にいて、この危機対応に当たったという。今回との違いは三点あると指摘する。
「一つは、前回ほとんど石油備蓄がなかったのに対して、今回は2月末時点で250日の備蓄があること。二つ目は、当時は原油の調達の多くはメジャー任せで、誰も責任をもって先行き見通しを話せる人はいなかった。しかし今回は、原油の代替調達によって石油会社は正確な見通しを持つことができて、不足分は備蓄を取り崩す組み合わせにより、ナフサなど目詰まりの部分はあるものの、ある程度見通しが立っている。そのため、日本経済全体はパニックにはならないでいる。
三つ目は、代替調達の中に当社が関与している自主開発した権益があるように、調達先を増やしてきていることなどがあって、今回は大丈夫だと言えるのが実感だ。この戦争が長期化した場合は、消費節減をどのようにやるか考えなければならなくなるかもしれないが、社会経済活動をネガティブな影響のない形でソフトランディングできるのではないか。先日、オーストラリアを訪問したが、資源国でも備蓄がないため、ディーゼル、ジェット燃料がないことが連日、大ニュースになっていた」
4月15日に高市早苗首相は東南アジア諸国とのオンライン会合を開き、地域の経済に対してサポートする「パワーアジア」を発表した。具体的には、日本が東南アジア諸国に1兆6000億円を拠出し、エネルギーサプライチェーンを強化し、原油や石油製品の調達を支援するなどといったプログラムだ。副社長の滝本氏はこう話す。
「当社の最大の使命は日本をはじめとした、アジアのエネルギーの安定供給である。販売量は契約で決まっているため、スポットで自由に販売される量は限られているが、こういう時こそ融通できる原油、天然ガスで最大限努力して関係国に安定供給したい」
INPEXはアジア諸国に対するエネルギーの安定供給でも重要な地位を占めている。台湾も日本と同様に大半のエネルギー源を海外に依存している。中でも世界最大級の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)は安定した電力供給がなければ、世界に向けて先端半導体の出荷が滞ってしまう。その意味でINPEXの台湾へのLNG安定供給は西側諸国の経済安全保障にもつながっている。
巨大プロジェクトで
貫き通した志
2010年にINPEXの社長になってから北村氏は、日本企業がかつて経験したことにない豪州の「イクシスLNGプロジェクト」を進めるかどうかの最終的な投資判断(FID)を12年に下し、ゴーサインを出した。しかし、商業生産開始の時期が当初予定より2年以上遅れ、社外の投資家からは「やはりこの巨大プロジェクトは無理なのではないか」といった厳しい声も聞こえてきたという。
そうした批判もある中、貫き通せたのはなぜなのか。北村氏は言う。
「会社全体を通して脈々と流れている〝資源マンとしての志〟だ。当社はもともと三つのルーツから成り立っている。特に前身の帝国石油では、戦争末期に徴用されて南方の産油地に勤務していた社員約1600人が亡くなるなど、苦難の歴史がある」
開発会社として日本企業初となる「操業主体(オペレーター)」という地位を獲得して、4兆円プロジェクトを回していくためには膨大な資金を確保しなければならなかった。
自主原油の開発は「日の丸油田」を持ちたいとの宿願から、山下太郎が政財界のバックアップを得て1958年にアラビア石油を設立、サウジアラビア、クウェートの原油採掘権を取得して61年から日本向けに原油を積み出した。しかし、2003年に権利の更新ができず、すべての採掘権を失った。その後は政府の支援の下に石油会社などが採掘権を獲得しようと努力してきたが、世界の石油や天然ガスの領域では、「メジャー」と呼ばれるエクソンモービル、シェブロン、シェル、BPなどが戦後、長期間にわたり支配を続けて、日本は相手にしてもらえなかった。
「メジャー」のおこぼれをもらえる「パートナー」にはなれても、生産量を含めプロジェクトを主体的に運営できる「オペレーター」には、経験や資金力などで劣っていたため手が届かなかった。
資源開発に必要な膨大な資金調達も難題だった。
「経営が厳しかった時に一部の外国人投資家は追加融資に応じてくれなかったが、日本のメガバンクとJBIC(国際協力銀行)は支えてくれた。そのためには、将来的には当社が成長し、業績が好転するというストーリーをきちんと説明する必要があった。上場している企業だけに、志だけでは投資家は納得してくれない」(北村氏)
