日本統治時代までさかのぼれば、日本人と台湾人の教育の区別を少なくした第七代台湾総督・明石元二郎が布告した台湾新教育令の存在も見逃せない。これにより台湾人も内地への学校へ進学できるようになり、李登輝は京都帝国大学に入学することができた。
それでも、台湾民主化における李登輝元総統の果たした役割は大きく、近代台湾史におけるその存在感の大きさは、これからも決して揺らぐことはない。早川氏には今も忘れられない総統の言葉があるという。
「『独立か、統一か』よりも最も重要なのは、台湾が『存在し続けること』。総統はいつもそう言っていました。また、台湾は日本や中国と比べて小国であり、台湾だけで存在を維持していくには心もとない。だからこそ、民主主義や自由という同じ価値観を持つ日本の協力を得られれば、台湾は『存在』を維持できる。『台湾が存在していればこそ、そこに希望が生まれる』と─」
「対等な世代」が紡ぐ
これからの日台関係
李登輝が蒔いた種は台湾社会で着実に花開いている。それは、国民の政治参加への意識の高さからもうかがえる。しかも、民進党、国民党に限らず、日本の候補者と比べて若く、女性候補者も多い。
「日本と異なり、台湾には『選挙によって社会は変えられる』という成功体験があります。候補者も20代、30代が当たり前です。しかも、投票して終わりではなく、その後の地元や有権者、メディアのチェックも厳しいため、当選すれば安泰ということでは決してありません。
とはいえ、地方ではいまだに利権政治がはびこっている面も見られ、総統にとってもやり残したことがあるという思いがあったはずです」
そう語る早川氏には、これまで以上に日台間の交流を加速させていきたいという強い意思がある。
「国交がない中でもできることはたくさんあり、日台の実質的な関係をさらに強化していきたい。
ただ、現実問題として、李登輝元総統のように、日本語世代の多くはこれから鬼籍に入ります。だからこそ、彼らの証言を残すことはもちろん、我々や若い世代はもっともっと互いの国を往来し、交流していく必要があります。しかも、戦前戦後という重い時代を経て、今の若い世代はフラットでイーブンな関係として交流できるチャンスがあります」
その時に重要なことは「謙虚さを持つこと」だという。
「台湾の人々、特に若者たちは日本の台湾統治を好意的には見てくれているものの、そんな歴史の軛からは解放されて、フラットに日本に向き合っているように感じます。これからの日台交流は、対等の関係で前進していくのではないでしょうか。また、謙虚であれば、自然と彼らが様々なことを教えてくれますから。
そうした前提に立ち、日本はいい意味での〝兄貴分〟として、いかに台湾が大切な存在かを国際社会に訴えていくことが重要でしょう」
日本も台湾も中国という大国と向き合わざるを得ない運命にある。
一方で、中国は引っ越しができない重要な隣国でもある。その隣国と付き合っていくには、日台関係、あるいは、日米台の緊密な連携と、揺るぎない信頼関係の構築が不可欠である。それこそが、この地域の平和と安定を守る確かな礎となる。
企業経営などでは、「現状維持」はネガティブなイメージがつきまとうが、こと、中国との関係性を考えた時、現状維持には、高度な外交・安全保障政策が必要である。
特に日本の政治家は、困難であっても、かつての中曽根康弘と胡耀邦、野中広務と曽慶紅のように、中国中枢とのパイプ、対話の窓口を構築する努力が欠かせない。これは、相手に媚びることではなく、日本の国益を守るための意思疎通ルートを握るということだ。それは民間人にはできない政治家としての責務だろう。
日本と台湾は自然な相互補完関係にある。台湾に興味を持つきっかけは旅行でもグルメでも、何でもいい。しかし、それだけではもったいない。日本統治時代を含めて、台湾がたどってきた様々な歴史をはじめ、半導体などのテック産業に代表される生存戦略などについても日本人は真摯に学び、お互いが切磋琢磨し合える存在でありたい。
日台新時代に向けて、我々にできることはたくさんある。
