与野党の「温度差」
台湾では、抗日戦争の主役が中華民国だったという点で与野党の認識は一致している。しかし、両者の温度差ははっきりしている。
民進党政権で中国政策を担当する大陸委員会は「中華民国こそが米国の堅実な盟友だった」と反論した。これに対し、野党・国民党は「民進党は都合のいい時だけ中華民国を持ち出している」と批判している。
もともと民進党は「台湾の主体性確立」を掲げて民主化運動を担ってきた政党であり、中華民国体制には否定的な姿勢をとってきた。しかし2000年以降に政権担当の経験を重ねるにつれ、「中華民国総統」「中華民国政府」としての立場を意識するようになり、現在は「中華民国台湾」をその国家認識の主軸に据えている。
それは、中華民国はすでに台湾に根付いた政治体制であり、中国大陸とは直接の関係を持たない、という考え方だ。その一方で、49年以前の中華民国の歴史については、その担い手だった国民党と比べて距離を置いているのも事実である。
例えば頼清徳総統は、2025年の抗日戦争勝利80周年に際しての談話で、「抗日」「抗戦」といった言葉を使わず、「第二次世界大戦終戦80周年」という表現を用いて「抗日戦争」の色彩を薄めた。国民党の陳以信・文化伝播委員会主任委員が今回、「(大陸委員会の反論は)歴史については正しい。しかし、それは頼清徳総統自身の歴史観を否定することになる」とコメントしたのは、この点を突いたものだ。
台湾では11月末の統一地方選挙に向けて、与野党の選挙戦が激しさを増している。野党側には、トランプ・習近平会談の「同盟国」問題を利用して、少しでも民進党の評価を下げたいという狙いもうかがえる。
一方、中国と対峙する民進党政権は、台湾に好意的に目される高市早苗首相がトップを務める日本を中国が「新軍国主義」の挑発者だと非難していることに警戒感をあらわにし、「侵略的な行動をとっているのは中華人民共和国であり、アジア太平洋の第一列島線で緊張を生み出している張本人だ。日本は挑発者ではない。中国は米国と、日本などの同盟国との離間を図っている」と主張している。
米国と同盟国だった「中国」とは
こうした現実政治の議論が台湾では続く一方で、米国がなぜ「米中は同盟国だった」という認識に異を唱えず、ファクトシートにまで盛り込んだのかについては、台湾でも踏み込んだ議論が行われているとは言い難い。
重要なのは、米国は「中華人民共和国と米国は同盟国だった」とは言っておらず、英語で「チャイナ(中国)」という言葉を用いている点だ。
1937年から45年までの日本との「八年抗戦」の間、中国大陸は国民党が主導する中華民国の統治下にあり、首都南京が日本軍により陥落した後は重慶を臨時首都として抗戦を続けた。蒋介石は当初、共産党の掃討を優先して日本との全面衝突を避けていたが、36年の西安事件を機に国共両党は抗日で協力する方向へ転じ、日中戦争の全面化を受けて第二次国共合作が成立した。
もちろん中華人民共和国はまだ誕生しておらず、中華民国は、米国や英国などとともに連合軍の一員だった。日中戦争では国民政府軍が正面戦場を担う主力となり、共産党の八路軍や新四軍は華北・華中などで主にゲリラ戦を展開した。
中華民国の歴史観では、抗戦の主力は当然、自らであったとされる。中国共産党の歴史観もそれを正面から否定はしないが、共産党こそが抗戦の「中流砥柱」(中心的な支柱)だったという表現で、決して端役ではなかったと位置付けている。
