2026年10月6日(火)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2026年10月6日

 最大の問題は、米国の同盟国だったのが「中国」なのか、「中華民国」なのか、それとも「中華人民共和国」なのか、という点である。

 中華人民共和国でないことは明らかで、繰り返しになるが、当時の同盟国は中華民国である。しかし、中国共産党の論理では、現在の「中国」を代表する唯一の合法政府は中華人民共和国であるため、現在は「中国」として米国と同盟国だった歴史を共有する資格がある、ということになる。

 ここには「中国とは誰なのか」という戦後世界の難題が潜んでいる。

米国が受け入れた「チャイナ」は同盟国という論理

 中華人民共和国は49年の成立以来、「中国は一つであり、自らが中国を代表する唯一の合法政府である」と主張してきた。日本も米国も、中華人民共和国との国交樹立の際にこの主張を受け入れている(台湾を中国の領土とする主張に対しては日米とも留保があるので要注意)。

 この「唯一の合法政府」という点は、中華民国から中華人民共和国へ「中国」の正統な政府が交代したということを意味する。「中国」という国家はもともと存在し、それを代表する政府が替わったという理屈である。国連についても、71年に中華人民共和国が国連に「加盟」したと言われることが多いが、実際には中国は45年からの原加盟国であり、71年の国連総会決議(第2758号)は中華人民共和国の権利を「回復(restore)」したとの表現を用いている。

 一方、中華民国は台湾に移った後も「正統な中国」を掲げて中華人民共和国と対抗し、形式上はその体制のまま現在に至っている。中国大陸を自らの領土に含む憲法も改正されていない。

 とはいえ、現在の台湾が自らの主権が中国大陸に及ぶと積極的に主張することはなく、憲法が古い時代のまま残っているにすぎない。改正しようとすれば中国の激しい反発を招き、米国も強く反対するため、手が付けられていないのが実情だ。

 台湾は限りなく薄まった「中国」という表皮をまとってはいるが、中身はどんどん「中国」から遠ざかっているのが近年の実情である。そのため「日本と戦ったのは中華民国」という点も単に歴史的事実として唱えている感が強い。

 いずれにせよ「中国共産党は日本と戦ったか」はイエス、「中華人民共和国は米国の同盟国だったか」はノーだが、「中国は米国の同盟国だったか」はイエスであり、現在の「中国」の政府である中華人民共和国には同盟国としての歴史を米国と共有する資格がある――これが中国側の論理である。米国が「チャイナ」という言葉で同盟国だったと記したことは、この論理を受け入れた形とも読める。

 そのこと自体は歴史的な解釈として議論する余地も必要もほとんどない。日本が米国や中国を主体とする連合軍と戦ったのは事実だからだ。

 いま重要なのは、中国がその背後に目指している日米、米台、日台の離間を、「米中は同盟国だった」というナラティブから、「新軍国主義を進める高市早苗首相と独立を企てる頼清徳総統が中国に対して挑発を重ね、地域の安定を脅かすトラブルメーカーでもある危険な指導者」と印象づける世論戦と認知戦を、トランプ大統領への「洗脳」を通して仕掛けていると疑われる点である。


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