この美術館は完全に私立の美術館だが、建物の規模に比して学芸員は6名と、かなり多い。弥生美術館が高畠華宵の常設展示と、他の挿絵画家企画展示との2つあって、ここに4人。そして隣接してある竹久夢二美術館に2人ということになっている。
華宵の常設展は、時代の匂いがむんむんしていた。もとは日本画の修行からスタートしていることもあり、絹本の掛軸も並んでいる。でも特徴あるのはやはり挿絵の方だ。とろけるような、潤んだような、上目づかいの妖しい眼差し、白い肌、ふっくらとした頬、小さくて濃い唇、それが女だけでなく、男もそうだ。とくに少年が、服装以外はほとんど女性と同じように描かれている。両性具有といえばいいのか。宝塚歌劇の世界とも少し重なる。華宵は生涯独身だったというのも、その絵に何か憂いを与えているのかもしれない。
竹久夢二の方はもう少し別の広がりがある。夢二も挿絵の世界で仕事をしたが、その絵はじつにデザイン感覚にあふれている。弥生美術館の方の挿絵世界は物語性に支えられているが、夢二の方には詩的な流れが充満している。展示作品も挿画だけでなく、本の装丁や絵ハガキ、絵封筒など、洒落ていて、そのどれもが新鮮だ。ぼくは友人宛の絵手紙にそれを感じた。一瞬の走り描きにも、惜しみなく絵画感覚があふれて、思わず欲しくなる。
肉筆画の掛軸などもあって、筆先のよろよろとくだけた感じがじつにいい。夢二作品はもとは弥生美術館の一部としてあったが、創立者が好きで作品が増えてきたので、別に増設した。
この2つの美術館にあるのはいわゆる額縁入りの絵画ではなく、いずれも出版美術の分野のものだ。時代と濃厚な関係を結んできたものだけに、ここで再会できたという思いが強く、その侘びしさもひとしおである。
【弥生美術館】<住>東京都文京区弥生2-4-3 <電>03(3812)0012
【竹久夢二美術館】<住>東京都文京区弥生2-4-2 <電>03(5689)0462弁護士の鹿野琢見氏(1919年~)により、弥生美術館は高畠華宵(1888~1966年)のコレクションを公開すべく1984年に、竹久夢二美術館は弥生美術館の夢二コレクションを専用に展示するため1990年に開館した。1997年、近隣に開館した立原道造記念館は姉妹館。
<開>10時~17時(入館は16時30分まで)
<休>月曜(祝日の場合は翌火曜)、展示替え期間中、年末年始
<料>一般900円 ※両館併せて見学可
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