2024年4月20日(土)

韓国の「読み方」

2014年8月29日

 韓国では、公選によらない任命職の高位公職者を大統領が任命する場合、国会の人事聴聞会を経ることが義務づけられている。2000年に制定された人事聴聞会法は、高位公職者の不正腐敗が問題となり、強大な権力を持つ大統領の人事に対しこれを牽制する目的から導入された制度であり、候補者の業務遂行能力と人格的資質を検証するものである。

 韓国では、候補に指名された後、国会人事聴聞会を含む一連の検証過程で自ら候補を途中辞退することを「落馬」という。特に、今回の首相候補2人の「落馬」は、そもそも人事聴聞会が開かれる前の辞退である。朴政権発足後、この「落馬」の数が歴代政権に比べて多いのは注目される。セウォル号事件後、首相をめぐる一連の政局混乱に疲れた国民からは、「韓国に首相は本当に必要なのか」という声まで聞こえるようになった。

 筆者は韓国人の同僚や仲間に「韓国における首相の印象」について尋ねた。政治や社会にそれなりに関心の有る人ならば首相の名前をあげられるが、一般的には、そもそも首相が誰なのかも知らない場合が多い。

 回答者のイメージは概ね、「大統領の代わりに責任をとるポスト」「存在感が薄い」「本来であれば名誉職に相当する職位だが、近年の検証では全ての個人情報やプライバシーが身ぐるみ剥がされるため、指名そのものを辞退する人が多い」「目立たない職位ではあるが、誠実な人が任される職」「大統領の支持をうけ国政を総合管理する行政官のような役目」「実権のないあやつり人形」「強力なリーダーシップを発揮する人はほとんどいない。むしろ強力なリーダーシップを発揮しようとすると大統領と対立する」というものだった。

 このように、現首相が誰なのか答えられない人が多いにもかかわらず、ひとたび大統領が指名すれば、首相候補者に対する検証作業が連日のトップニュースになるのは不思議なものである。

「傷だらけの候補者」たちを生む
人事聴聞会のシステム

 なぜ国会の人事聴聞会が開かれる以前に多くの候補者が辞退するのか。それは、制度的側面にも一つの要因があるのかもしれない。人事聴聞会法によれば、まず大統領が候補者を指名した後、首相任命同意案を国会に提出することから始まる。同意案には任命承認要請書と、候補者の学歴・経歴・兵役・財産・納税・犯罪歴などの関連資料が添付される。任命同意案を受けた国会は、13名からなる「人事聴聞特別委員会」を構成し、20日以内に審査及び人事聴聞を終えなければならない。国会人事聴聞会では多岐にわたる質問を受け、時には攻勢をかけられるのだが、その様子はテレビで放映される。その後、委員会は審査経過報告書を作成し国会議長に提出し、任命同意案が国会に上程され、その結果を政府に送付する。


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