6月末までの2カ月、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は新首相を探しさまよっていた。旅客船「セウォル号」沈没事故における政府の不手際の責任をとり鄭烘原(チョン・ホンウォン)首相が辞意を表明した後、2人の首相候補が相次ぎ途中で辞退したのだ。この事態に、韓国社会はいよいよ混乱した。苦心の末、大統領府は6月26日、一度は辞意を表明したはずのチョン首相を留任させると発表した。大統領が辞意の受け入れ意志まで明らかにした後に、再度留任させることは憲政史上初めての事である。
批判にさらされ、辞退に追い込まれた2人の首相候補
チョン首相の辞意表明後、候補となった2人はなぜ途中辞退に追い込まれたのか。一人目は、5月22日に大統領が指名した元最高裁判事の安大煕(アン・デヒ)候補である。アン候補は、2012年の判事退任後に大企業の顧問弁護士として高額の報酬を得ていたことが世論の批判にさらされ、わずか6日後の28日に候補を辞退している。
続く二人目は、6月10日に指名された元中央日報主筆の文昌克(ムン・チャングク)候補。内定すれば言論界出身初の首相になると言われていた。しかし翌11日夜9時のKBS(韓国放送公社)テレビニュースは、ムン候補が過去の講演会等で「日本による植民地支配や、戦後の南北分断は『神の意思』と発言していた」ことをトップニュースで放送した。これをきっかけに過去の記事や発言等が部分的に引用され、植民地や歴史問題に関する発言といった国家観や歴史観が議論の対象となり、結局ムン候補は「親日派の極右」という烙印を押された。
しかし、KBSによる報道は特定の部分のみを編集報道し、作為的であったことが後に議論にもなっている。彼を親日的歴史観の持ち主であると証明する合理的証拠を提示したメディアはなかった。それでも結局6月24日に記者会見を行い、ムン候補は首相指名を辞退したのである。
「韓国に首相は本当に必要なのか」
大韓民国憲法第86条によれば、首相(国務総理)は以下のとおり定められている。「国務総理は国会の同意を受け、大統領が任命する」(憲法第86条第1項)。「国務総理は大統領を補佐し、行政に関し大統領の命を受け、行政各部を統括する」(憲法第86条第2項)。
本来であれば大統領に次ぐ国政のナンバー2として、大統領を補佐すると同時に大統領の指揮命令を受け、行政府を統括する役割を担っているはずだが、近年そのような存在感ある首相は記憶にない。