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メディアから読むロシア

2014年9月2日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 軍需産業は長らく工業上・技術上のイノヴェーションを進めるためのツールとされてきた。だが、その主要な使命は今後、国土防衛にも国外展開にも使用できる多様かつ有用な装備をロシア軍に供給し、その近代化を完了させることとなる。

「クリミアはロシアの国民的統一の象徴」

 西側との対立、ことにロシアに対する経済制裁と情報戦は、ロシアの愛国心を強烈に燃え上がらせる結果となった。今やモスクワが目指しているのは、ロシア社会の大多数の人々をこの線で、すなわち「国民的結束」の名の下に糾合することである。これに従わない少数派は、「外国のエージェント(スパイ)」として社会的に排除されてしまうだろう。

 クレムリンが伝統的な価値観を推進することで、肯定的な国民的結束が達成されるだろう。たとえば、国家を優先させるとの観念、既存の宗教組織(特にロシア正教会が目立った役割を果たす)による道徳的・精神的導き、伝統的な家族制度の神聖さ、そして国家の内部における異なった民族集団間の共存などである。

 この意味でクリミアは、イデオロギー的な断絶を越えたロシアの国民的統一の象徴であると同時に、ロシア国民がその競合者に負けない力を持っているという新たな発見を示すものでもある。ひとたびロシアへと再統合されたからには、いかなる条件下においてもクリミアを放棄するということはありえない。このことを議論の余地無く明らかにするため、同半島におけるロシア軍基地が強化されているところである。現在、ロシアの国境に兵力を展開させているNATOが、再びその仮想敵となろう。

中国など非西側諸国への関心

 新たな対外政策に関しては、ロシアの立場は確固とした、しかし忍耐強く慎重なものとなろう。ロシアが西側への報復制裁として発動した農産物禁輸は、幾つかの中欧及び東欧諸国に手ひどい打撃を与えた。だが、同時に、ロシアは米国やNATOとの正面切った武力紛争(特にウクライナにおいて)を回避しようとし続けるだろう。

 ロシアがウクライナを諦めることは期待すべきではないが、この長いゲームをプレイするための戦術や戦略は変わってくるだろう。モスクワは、東部における騒擾から、より政治的なイシューへと焦点を移してくる可能性がある。これは、間近に迫ったウクライナ議会選挙や、冬が近づくにつれて差し迫ってくる経済的課題などを念頭に置いたものだ。

 グローバルに見ると、モスクワは米国の覇権を弱めるために非西側諸国との同盟関係を築いていくだろう。その筆頭は中国だ。ロシアはより多くのエネルギーと軍事技術を供与し、見返りとして現金と投資を得ようとするだろう。そのほかには、インド、ブラジル、アルゼンチン、エジプト、イラン、イスラエル、トルコ、UAEに対しても、モスクワはより強い関心を持って視線を向けている。

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