ロシアが非西側勢力に参加するといっても、米国の行動がロシアの利益を害しない分野においてまで米国との関係を断ち切ってしまおうというわけではない。たとえばアフガニスタンやイラクがそうだ。だが、9.11事件勃発時とは異なり、現在のモスクワは(もちろんイスラム過激派にシンパシーを持っているわけではないにせよ)は、リビアからイラクに至る地域的不安定の根本的原因はワシントンの政策にあるのだと指弾している。
著しく格下げされた欧州との結びつき
ロシアはまた、国益にそぐわないと判断した国際的条約及び合意から自由に脱退できるのだと考えるようになるだろう。これは1987年に米ソが結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約について特に言える。同条約は、その制限範囲内にある全てのミサイル(訳者註:射程500-5500kmまでの地上発射巡航ミサイル又は地上発射弾道ミサイルを指す)を破棄するよう両国に義務づけているが、その他の国々が当該クラスのミサイルを保有することは全く自由である。同様に、ロシアの欧州人権裁判所への加盟も危うくなっている。というのも、モスクワは、同裁判所が過度に政治的な存在となっていると考えているためだ。これについてはいかなる決定が下されたわけではないが、懸念は残っている。
モスクワは欧州を完全に無視している訳ではないが、欧州との結びつきは他の関係と比べて著しく格下げされた。過去半年の間、ロシア側はEUに酷く失望させられたことが2度あった。その第1は、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチと反体制派との合意をフランス、ドイツ、ポーランドの仲介で結ばせておきながら、当の3カ国がそれを守り通そうとしなかったことだ。第2に、マレーシア航空17便の撃墜事件後、EUが米国に同調し、ロシアに対する部分制裁に踏み切ったことがある。この事件では、米国と欧州は確固たる証拠が無いにもかかわらずロシアを非難してきた。
ここまで述べてきたことを勘案するに、ロシアがEU加盟国との個別の接触を控えるべき理由は以前より低下していると言える。というのは、今日、欧州統一という言葉は、欧州が結束して米国の側に付き、ロシアに対抗するという意味になっているからだ。と同時に、欧州諸国が望んでいるのは、キエフによる軍事的勝利というよりもウクライナにおける暴力の停止であるということもロシアは承知している。さらに、欧州諸国はウクライナ問題に関してロシアとの協力を欲していることも分かっている。それがたとえ極めて事務的で競合的なものであったとしても、だ。