2022年10月7日(金)

メディアから読むロシア

2014年9月2日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

* * *

【解説】

 冒頭でも述べたように、上掲の論考「ロシアの新たな国家戦略」は、これまでのトレーニンのイメージを大きく覆す内容とも取れる。特にプーチン政権の進める国家主義的対内政策を「肯定的な結果をもたらす」と評価する箇所などは、これまでのトレーニンの論調を知る者としてやや驚きを以て受け止めた。対外政策に関しても、これまでになく強い言葉を用いて欧米を非難している。

 さらに言えば、この論文は最初から英語で書かれている上、カーネギー財団モスクワ・センターではなく、欧州センターのサイトに掲載された。つまり、最初から欧米のエリート達が読むことを想定した上で(あるいは、だからこそ)ここまで書いているのだ。

追い込まれるロシア

 もちろん、トレーニンらしい優れた戦略眼ははっきりと生きている。もともとトレーニンは、ユーラシア大陸におけるパワー・シフトについて鋭敏な視線を向けてきた。トレーニンがロシアの新たなパートナーとして新興諸国を挙げているのは、単に「非西側」というだけでなく、そこに大きな発展のポテンシャルを見て取っているためだ。

 だが、これがロシアの「国家戦略」であり、「結晶」と呼ぶべきものであるかどうかについては、依然として疑問が残る。やはりこれは確固たる「新たな国家戦略」というよりは、欧州における苦境によってロシアが追い込まれている現状を「戦略」という名で追認しているように見える。

 たとえば本稿では、ロシアが「影響圏」と見なす旧ソ連諸国との関係に何も触れられていないが、中国との関係を強化するならば中央アジアにおいて、トルコとの関係を強化すれば南カフカスにおいて、「影響圏」が干渉することが予想される。あるいはトレーニン自身も以前指摘したように、こうした「影響圏」のせめぎ合う地域の国々もただ無力な客体に過ぎないわけでは無く、独自の戦略と行動力を持った主体である。「国家戦略」であるならば、そして普段のトレーニンならば、こういった点にまで鋭く筆が及んでくるように思うのである。

 そのほかにも輸入代替とは本当にそう簡単にいくものなのか、ロシア軍を近代化するとして、それは何を目指すのか、など、本稿を読んで浮かんでくる疑問は多い。

 いずれにしても、トレーニンという人物は極めて多筆である。今後、筆者のこうした疑問に彼の著作がどう答えてくれるのか、小欄でも継続的にご紹介していきたい。

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