科学で斬るスポーツ

2014年9月29日

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 サービス向上の理由について、テニスのゲーム分析を手掛ける、鹿屋体育大准教授の高橋仁大さんは「サーブを打つときのトスの改善」を挙げる。

 図2は、2008年と2014年の公式戦における錦織のトス位置を比較したものだ。左側の08年はトスの位置が体の左側になっていたが、今年はだいぶ右側になっていることがわかる。これによって、ボールをとらえる時に無理に体を反って打つ必要がなくなる。お尻の筋肉など体の中心線の筋肉(体幹)を鍛えて、無理な姿勢でなくても速いサーブが打てるようになったこともある。

 高橋さんは「大きく反ったまま打たないことで軸がぶれず、サーブの安定性が増した。必要以上に体に負荷がかからないので、体力消耗を防いでいる。こうした改善によってサービスへの自信と、精神面、体力面での余裕が生まれ、コントロールなどもついてサービスエースが生まれている」と指摘する。

際立つ予測力の高さ

 もう一つ錦織の特徴を雄弁に語るデータがある。予測力の高さだ。テニスを中心にジュニア世代などにトレーニングを指導する、「Passion Sports Training」(東京)代表の武井敦彦さんは「錦織は相手の動きを研究し、どういう展開になるか予測する能力が高い。一瞬の動きをとらえ、どこに狙うか、どう打つかを判断している。スポーツビジョンの能力も高い」と語る。

全米オープン2014期間中の上位4選手のデータ(出典=http://www.ibm.com/sports
図3 試合中の全走行距離(単位はメートル) 図4 全試合のトータルポイント数(単位は取得ポイント数) 図5 全走行距離÷全ポイント数。つまり、1ポイントを取得するのに要した走行距離。錦織選手は、少ない走行距離でポイントを稼いだ。体力温存できたことを意味するが、逆に言えば、リターンボールをどこで返せばいいか予測力が極めて高いことを示す。
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 それを示すデータが、米IBM社が全米オープンの上位4選手、ジョコビッチ(セルビア)、フェデラー(スイス)、チリッチ(クロアチア)、そして錦織についてまとめた図3、4、5だ。

 図3は、4選手の大会期間中の全走行距離。試合数に違いがあるので単純比較はできないが、フェデラーの多さとチリッチの少なさが目を引く。

 フェデラーは、オールラウンドプレイヤーとしてコートを走り回り、チリッチはビッグ・サーバー(身長の高い、速いサーブを得意とする選手)として、あまり動かないスタイルであることがわかる。

 図4は、全ポイント数。錦織は相手にポイントを奪われながらも、粘り強くラリーを続け、ポイントを稼いでいる。ラリーに持ち込み、相手のミスを誘い、チャンスボールをものにする姿勢はフェデラーとよく似る。

 しかし、図5を見ると、錦織のすごさが浮かび上がってくる。数値は、1ポイントを獲得するのに要する距離だ。ジョコビッチは1ポイントを取得するのに、10.43mも走っている。それに比べ、錦織は平均で2mも少ない8.42m。ビッグ・サーバーのチリッチも8.57mと少ないが、エースなどサービスゲームで優位に立つスタイルなのであまり動かないのは当然と言えば、当然である。

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