2024年11月22日(金)

対談

2014年10月3日

木下:そうなると当然、利用者はほぼいなくなる。「指定管理」といえば聞こえはいいけど、実態は民間に運営を外注して、ほとんど使われない施設運営で発生する赤字を、自治体が補填しているだけです。これでは誰も幸せにならない。せめて地域の中学生や高校生が安い料金で利用できるということであれば、一定の公共性はあるのですが、一般よりも高い公共施設を作ることにはまるで意味がありません。

飯田:競争がないといえば、旅館や民宿の宿泊料金が地域内で統一価格(協定料金)になっていることも多いですね。あれが僕にはわけがわからない(笑)。伊豆諸島などもそうですが、正直言ってそのせいで良い宿が少なくて、学生の合宿で使っても学生に「汚い」と言われてしまうようなレベルもゴロゴロあります。島ごとに相場は違ったりもしますが、同じ島の中では競争する気はゼロ。

木下:統制経済になってしまっているんですね。

飯田:たとえばボロボロだけど素泊まり一泊1980円の宿と、快適なリゾートホテルで一泊何万円というところの両方があっていいはずだと思うんです。でもそうはならない。ほどほどダメなほどほど安い宿しかないことが、場所としての魅力を下げてしまっている。伊豆諸島の場合、調布や羽田から30~40分で着くのはすごく大きなアドバンテージで、海は都内とは思えないほどきれいですし、温泉が出る島もある。でも自分のところで温泉が出る宿がなかったり、あるのはものすごく汚い無料の公営温泉だったりする。旅館が自前でボーリングして、きれいな露天風呂を作ってしっかりとお金を取ってくれたほうが、リゾートを求めて来た客にとってはずっとありがたい。たとえば大手リゾートみたいな企業を誘致してホテルを作って、そこにダイビング船や遊覧船の発着所も作る、といった発想があれば一気に変わる可能性だってあるんですけど……

木下:やらない、ですよね。

飯田:「競争しない」社会が完全に出来上がっている。地方はすぐに非競争の方向に行ってしまう傾向が強いです。

木下:大都市であってもそうですね。とある大都市の商工会議所で活性化事業に関わることになって、会議で「大いに地元企業が互いに競争し、より良いサービスにしていきましょう」と言ったらドン引きされてしまいました。大声で「地元企業を競争させるなんてけしからん」と怒鳴られたり(笑)。「あれ、商工会議所っていつから経済団体じゃなくなったのかな」と思うわけですけど、そこにある基本思想は「分配」なんですよね。「パイを増やそう」とか、「よそと競争して素晴らしいものを作ろう」という発想は生れずに、「今あるパイを公平にわけてやっていこう」に傾いてしまう。個々のプレイヤーでは競争志向の人もいるのですが、業界団体などになってしまうと競争意識は消えてしまって、結果的に中長期的には競争力を失い、自分たちの事業機会そのものを狭め、パイ自体を減少させていることがほとんどです。 (3回目へ続く

木下斉(きのした・ひとし)
1982年生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一 般社団法人公民連携事業機構理事。高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立、社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、 関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。以降、地方都市中心部における地区経営プログラムを全国展開させる。2009年に一般社団法人エリ ア・イノベーション・アライアンス設立。著書に『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)、『まちづくりデッドライン』(共著、日経BP社)など。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)
1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

[特集]地域再生の厳しい現実

  


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