警戒レベル2にあたる過去事例を見れば、今回のケースでも、警戒レベルを2に上げることはできたようにも思える。そうすれば、登山道の入口などで、そのことがその理由と共に周知され、火口周辺への立ち入りも規制されていた。
太田昭宏国交相は、気象庁が噴火の兆候を把握しながら登山者への情報提供に反映できなかったことに関して、「情報伝達に改善が必要」との認識を示し、「噴火警戒レベルを上げるまでに至らないけれども、火山性地震が増加しているような場合についても、登山者に対して、最新の火山情報が気象庁のホームページに掲載されているという周知を関係団体の協力も経て、徹底する」と述べた。
しかし、明らかに状況が変化していると認識したのなら、レベル1のままで別の情報提供に尽力するよりも、変化に応じて警戒レベルの段階を変える方がわかりやすい。警戒レベルは、そのための、つまり、登山者らに状況の変化を周知するためのものであるはずだからだ。
今後もし、明らかに平常の1ではないが、2でもない状況が存在するのならば、1.5にあたる段階を設けてでも変化を表現すべきだ。もしくは、注意喚起と安全確保が目的なのだから、謙抑的にせず、1.5の認識でもレベルを2にしていく方向性が示されても良いのではないか。今回も、結果的には、レベル2としていた方が自然だった。
防災・減災の問題は、医療問題に似ている
火山の情報をどのように登山者や市民に伝えるか、という問題は、医療において、患者や市民にどのように情報を伝えるか、という問題と似ている。
医療では20年ほど前まで、患者に検査結果のデータなどカルテの情報は見せず、結論だけを伝え医療行為を行っていた。そのために、セカンドオピニオンを受けることもできなかったし、誤診等があってもわからなかった。しかし、最近では、検査結果のデータの写しが渡されることが多いし、カルテも開示請求ができるようになった。ところがそれでも、医療の中身はわかりづらいため、結論だけを求めてしまう患者は少なくない。
同じように、気象庁も、火山に関するデータをホームページ上などで一生懸命に公開している。しかし、登山者は結論、即ち、警戒レベルの数字だけを求めてしまうことが多いだろう。信頼できる専門家がその数字を出してくれている、と思っているからだ。
患者が医師から「少し検査結果データに異状が出ていますから、平常よりも安静にしておいて下さい」と言われれば、警戒レベル2と同程度の深刻度合いで受け止めるだろう。また、「少し検査結果にデータに異状が出ていますが、もう少し様子をみましょう」と言われれば警戒レベル1だろう。もともと御嶽山は活火山だから、レベル1にも、一定の警戒をするようにとの思いは込められているが、そのことは伝わりにくい。しかも、今回は、多くの登山者にとっては、「少し検査結果に異状が出ている」すなわち、「火山性の地震が増えている」ということさえ伝わっていなかった可能性が高い。