最新の重装備を用意して行ったが、すべてが水浸しのなかでは何も役に立たなかった。手こぎボートで現場へ近づき、ロープで遺体をつり上げる原始的な作業の繰り返し。
「災害救助はまずは消防や警察ですが、大規模災害においては、訓練され高い技能を持つ隊員を多く抱える自衛隊が適しています。東日本大震災でもそうした能力が発揮されました」
現場着任直後の災害救助の経験は、その後の志方さんの活動につながる。
北海道全域の防衛警備や災害派遣を担当する陸上自衛隊北部方面隊。志方さんがそのトップである北部方面総監を務めていた91年、長年の構想だった緊急医療支援訓練「ビッグレスキュー」を実施した。
東京都の総合防災訓練「ビッグレスキュー東京2000」で銀座通りを走る陸自の装甲車(JIJI)
史上最大規模の医療支援訓練
北部方面隊の隊員約3000人、ヘリ40機、車両1000台を投入した自衛隊史上最大規模の医療に絞り込んだ災害訓練であった。自衛隊内部からも「自衛隊の本来任務は戦闘防衛。世間におもねる訓練だ」と批判さえあった。しかし、当時米ソ冷戦が終わり、自衛隊の役割を再考。平時の役割として大規模災害における人命救助の機能を高めようと志方さんは考えていた。
「国を防衛するのが自衛隊の本来任務です。自衛隊はその任務を遂行するため、救助から輸送、通信、食糧や水の補給、医療まですべて自らの組織で行えます。防衛と災害の現場では共通点が多い。弾が飛んでこない災害時に対応できなければ本来任務の遂行などできるはずがありません」
志方さんが抱いていた思いはそれだけではなかった。