(Toshiyuki Shikata)
防大2期生として、自衛隊初期における苦労はなかったのだろうか。先に触れた伊勢湾台風の災害救助で部隊を率いたとき、部下のほとんどは自分より年上の陸曹だったという。
「隊員から見れば、防大出の新米少尉に過ぎませんでした。年は若く、経験では足元にも及ばない。そこで毎日朝礼で、隊員の前で五省(旧海軍で将校生徒の教育のために使用されていた5つの訓戒)を自ら唱え、一緒に復唱させることで、若い指揮官として純粋さをまっすぐに出すようにしました」
志方さんは発足後の自衛隊をずっと見てきたが、戦後しばらく社会の自衛隊に対する視線は厳しかったという。
「後にノーベル文学賞を取ることになる大江健三郎さんが同世代ですが、ちょうど私が防大を卒業する頃に『防衛大学生は若い日本人の1つの恥辱だと思う』と述べるなど、自衛隊に対する社会の意識は現在とは比べられない嘲笑的なものでした。そのために、若い頃は『なにくそ、逆にやってやろうじゃないか』とがむしゃらになって任務に取り組みました」
そんな志方さんから見て、現在の自衛隊はどう映るのか。
「PKO活動による国際貢献や東日本大震災における災害救助により、自衛隊は社会に認められた存在になってきました。そのなかでの活動ですから、甘えが出てくるかもしれませんね」
現在政府が検討を進める集団的自衛権の行使が可能になった場合、現場の自衛隊員の活動はさらなる危険に直面する場面もあるだろう。
(Takanori Abe)
世代交代も進んだ自衛隊は大丈夫だろうか。
「先日、海外派遣の経験もある若い隊員がこう言っていました。『憲法の制約のために、海外の現場に行っても、危険な場所まで他国の部隊と一緒に行って任務を果たせないことを重荷に感じた』と。今後はより危険な場所に派遣される機会も増えるでしょうが、それで逃げ出したりする自衛隊員はいないと思っています」
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